【鬼滅の刃】杏の木 ♦ 煉獄 / 長編 / R18 ♦
第2章 初めての死
「何の話をしているのかな!?」
「あっ…」
蛍が膝から崩れ落ちる。
杏寿朗は嘘をつかない。つまり本当に何もなくて、私が夢を見ただけなのだ。
そう思った瞬間、ドクンとした動悸と、異常なほど熱を帯びた体が、とうとう悲鳴を上げて倒れ込む。
「大丈夫か!」
「だ、大丈夫…」
はぁはぁと浅くて早い呼吸に、上気し頬を薄く染め、涙を浮かべ上目で返事をするその姿に、杏寿朗は不本意ながらもドキリとすくむ。
「熱いな!」
不意に杏寿朗が蛍のおでこに、自らのおでこをくっつけてくる。
「熱があるようだ!大丈夫か、これは心配だ!」
袖口から手ぬぐいを取り出すと、杏寿朗は蛍の汗をぬぐってやる。すると彼女の方から手ぬぐいをはらい、突然、唇を重ねてきた。
ほんの一瞬も戸惑うことなく、杏寿朗はそれを受け入れる。
蛍は舌にまで熱を帯びていた。温かく、ゆっくりと彼の唇の更に奥まで入ってきた。
だが、そこまで来て、蛍の方から唇を離す。
少し惚けたような顔をしているが、意識ははっきりしているようだ。
「何も……思い出さない?」
何を言っているのかさっぱりわからないと言わんばかりに、?を頭に浮かべているのがわかる。
しかし蛍は確信した。
この唇は…2回目だ。過去に経験している。忘れようがなかった。
「ごめん、私、行かなくちゃ」
確かめなければならない。
体がまだ火照っているが、動悸はだいぶ落ち着いてきた。
あの鬼がいる方へ。私はやらなければならない。
行こうとした蛍の手首をぐいとひっぱると杏寿朗が真剣な表情で告げる。
「好きだ。俺は、蛍が…」
「初対面の時から好きだった??」
言おうとした事を先に言われて、思わず動けなくなる。蛍は続けた。
「うん。私も大好き。最初はね、兄弟みたいに思ってたけど…今は…わかる」
「そうか!ならば俺がもう少し年をとったら、すぐに祝言だ!」
ともすればせっかちで、結論をすぐに出すのは杏寿朗の生来の性格だった。
嬉しいのを隠そうともせず、にっこりと微笑む。
「そうね、考えましょう。だけど、今はこれを終わらせないと」
真剣な眼差しを山の奥へと向ける。