【鬼滅の刃】杏の木 ♦ 煉獄 / 長編 / R18 ♦
第2章 初めての死
痛みがどんどんなくなっていく。それが死ぬということなのか、現実味をおびて忍び寄ってくるのがわかった。
(……後悔…しか…してないな…私)
今までの人生が脳内にフラッシュバックする。飛び出た才能も、個性も、何もない。何かを成し遂げた成果もない。
(私は…何のために…産まれてきたのかな……)
頭に浮かぶ映像もだんだんと闇に落ちていく。
もう指先ひとつ動かす力は残っていなかった。
だんだんと呼吸が浅くなる。鼓動は弱くなり、心臓が最後の動きを終えた時には既に意識はなくなっていた。
「………………………!!!!」
だから気付かなかった。
事切れるほんの少し前に、杏寿郎が来ていたことを。
顔がわからない状態で、杏寿郎は顔をわずかにしかめる。誰かわからないその遺体の、耳に光る赤い耳飾りを。
13年の人生で初めて取り乱した。慌てて駆け寄り言葉をかけても、何も反応はなかった。自らの衣服を真っ赤に染まる事も気にせず、彼の大きな瞳から涙がとめどなくこぼれおち、それが蛍の体に落ちる頃には、彼女の命の燈は消えていた。
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「!!!」
がばっと上体を起こす。もうすぐ夕暮れの訪れを感じさせる、うっすらど橙色が空の端っこを彩りはじめていた。
心臓の鼓動は限界まで早まり、吹き出す汗が止まらない。
(あれは……夢!??)
おそるおそる自らの右手を動かし、掌をゆっくりと動かしてみる。何の違和感もない、いつもの自分の手だ。
あれが夢なのか?いたぶられた感覚が生々しく残り、死の間際までの記憶がしっかりと残っている。夢だとしたら何て酷い夢なのか。
胸元を掻きむしりたい衝動を抑え、きゅうっと胸元で拳を握る。
「起きたか!おはよう!」
思わぬ声に振り向くと、そこにはいつもと変わらない、明るい笑顔の杏寿郎がいた。
「どうやら寝過ぎたようだな!そろそろ俺は行くとしよう!」
既視感に襲われる。おかしい。何かがおかしい。
ふと、杏寿郎の左耳の下に落ち葉がついているのが見えた。
あの鬼と出会う前の杏寿郎とのやりとりが頭に浮かんだ。そう、私はここで彼と唇を交わした…
「杏寿郎!あなた、何か覚えてる?」
蛍の茶色い瞳がまっすぐと彼を見つめる。その真剣な眼差しから、からかっているわけではない事はわかった。