【鬼滅の刃】杏の木 ♦ 煉獄 / 長編 / R18 ♦
第2章 初めての死
ぶちぶちと肉が裂ける音がする。肘の関節が外れ、ねじ切るように引きちぎられる。
剣が落ちて、地面に突き立つと、自身の血が雨の様にぼたぼたと流れ落ちた。
(痛い痛い痛い痛い……!!)
頭の中に死の警鐘が鳴り響く。叫びたくてももう肺の中に空気が残っていない。
何とか瞳だけでも鬼の方へやると、相手は何も気にする様子もなく、ねじ切られた蛍の右手を口に入れた。
むしゃむしゃと自らの手が食べられる光景。痛みと出血で意識が朦朧とする。
だけど、まだ死ぬわけにはいかない。
だがどれだけ身をよじっても、捕まれた体はびくともしない。
(杏寿郎…!)
頭の中に、最後に会った彼の顔が思い浮かぶ。
「んんん…?お前、鬼か?肉は人間の味だが、血は鬼の味がするぞおおおお」
鬼が自分の顔の正面に蛍の体を持ち上げた。
力を振り絞り、鬼をにらみ付ける。
「ん~~~?気にくわない顔だ」
ぐしゃっ
そんな音がした。それと同時に視界が真っ暗に暗転する。
顔面の上半分を削り取られたのがわかったのは、地面に落とされからだった。
「腹の足しにもならん」
心底つまらなさそうに鬼は吐き捨てると、山の奥へと去って行く。それが足音でわかった。
(何も……見えない)
どのくらい地面に転がされていたのか。数分?数時間?顔が焼けるように熱い。どんどん血が流れ体温は下がり、自分の血だまりが温かくすら感じた。
「ああああああああああああああああああ!!」
心の底から絶叫する。
私はここで終わり?死ぬのね。悔しい。こんな終わり方。あの鬼に何も出来なかった。自分が不甲斐無い。悔しい。痛い。悔しい。
頭の中がぐちゃぐちゃで、涙を流す瞳がまだあれば、泣いていないに違いなかった。
ふと、左手に羽織りが触れた。
(あ、やだ……せっかく……いただいたのに……汚れちゃう)
そんな事が頭をよぎる。
(血って落ちないのよね)
場違いな事ばかりが浮かんでは消えていく。
「…………!!」
遠くから誰かに名前を呼ばれた気がした。
でも、もうどうでもいい。死ぬんだもん。
(槇寿郎さま……?)
師であり救いの親ともいえる男の顔が思い浮かんだ。最近、全く会っていなかった事が、死を目前にして悔やまれる。
一言、ありがとうと伝えたかった。
だんだんと痛みが消えてくる。