【鬼滅の刃】杏の木 ♦ 煉獄 / 長編 / R18 ♦
第2章 初めての死
ここに来て何匹も鬼を倒したから?実際、今まで鬼を倒せば倒すほど、鬼が怖くはなくなっていた。
呼吸は使えなくても、この相棒がいれば戦える。右手に握る柄に自然と力が入った。
しばらく進むと、明らかに空気が変わるのがわかる。鬼がいる。それを肌で感じる事ができた。
「…!」
前方から突然飛んできた「何か」を体を半身ずらして避けると
、それはべちゃ!っという嫌な音を立てて気にぶつかった。
何かを確認したい気持ちがわき出るが、今は視線をそらす事はできない。とても危険だ。本能がそう告げている。
「な……」
奥からうっすらと見えてきたその姿に、声が漏れてしまう。今まで見たどんな鬼より、大きく、そして嫌な雰囲気だ。
「ん、ん、ん~~?まぁだいるのか~~~?」
姿を見せたその鬼は、ずんぐりむっくりとした体躯に、腕が何本もはえている。その腕が首を守ったり、蠢いたり、せわしなく動いているのがわかった。
「醜悪な鬼め…」
剣を真っ直ぐと右手で頭上より上に、まるで槍を投げる様に構える。狙うは首。腰を低く落とし、深く息を吸った。
左足で地面を勢いよく蹴り出すと、体をひねり、全てのスピードを剣へと乗せる。
一瞬で距離を詰めると、最後の1歩で首へとめがけ剣を振り下ろした。
(捉えた…!!)
ズブブッ…と剣がめり込むのがわかる。しかしそれは肉を断つその感覚ではなかった。
考えるより、理解するより早く、戦慄がはしる。
そう、私はしくったのだ。
首だと思ったそれは、数多の手の1本に過ぎなかった。頑丈に守られた首には太刀が届いてすらいない。
(やられる!!)
思った瞬間に、左の脇腹に強烈な一撃が振り下ろされた。一瞬、呼吸が止まり、続いて鉄球に打たれたような衝撃が走る。
吹っ飛ばされ、木にぶつかるが、腹の痛みがあまりに酷く、それ以外の痛みがわからなかった。
「く、この…!」
力を振り絞って立ち上がる。
まだ刀は握っていた。その右手を鬼は掴み、蛍の体を持ち上げた。
「ふんふんふん…お前、変なニオイがするな。強そうだから、てっきり鱗滝のとこのかと思ったが」
無機質に十字が刻まれた瞳がギョロりと動く。
「面がないな。まあいい」
その時だった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
肺の中の空気全てを吐き出した、腹の底からの絶叫が木霊する。