【鬼滅の刃】杏の木 ♦ 煉獄 / 長編 / R18 ♦
第2章 初めての死
選別の初日、蛍がこの羽織を着けている姿を見て、その生き方は間違っていなかったと確信した。
父の心の炎が消えていない事がわかったからだ。たまたま、今はちょっと燻っているだけなのだ。きっと幼い自分には想像も出来ない様な辛い事が続いたに違いない。
もとより父を恨んだ事などなかったが、今はほんの少し前の、今より幼い自分が少しでも辛いと感じていた、その己の未熟さが恥ずかしかった。
(俺も少し休もう)
遠慮もなく、杏寿郎は切り株を背もたれに横座りしている蛍の太ももに頭を乗せ目を瞑った。幼い頃はこの膝枕が大好きだった。
だが。
(………………)
全く落ち着かない。
昔とは違う。太ももはこんなに柔らかかっただろうか。ふと目を開けると頭上には柔らかそうに膨らんでいる小ぶりの胸元が目に入ってくる。
(よもやよもや……)
己を御する事を学び、得意としていたにも関わらず、今自分の細胞のひとつひとつがそわそわしているのがわかる。
13歳とはいえ、体は立派な大人になりつつある。4つも年上の蛍は既に女性としての肉体が出来上がっていた。
その柔らかく暖かな膝枕に頭を沈め、目を閉じる。最初こそそわそわしていたが、風を感じ、蛍の体温を感じているうちに、杏寿郎もうとうととし始めるのだった。
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「!!」
がばっと目を覚ますと、太陽はやや西へ向かい、空の端から橙色が広がり始めていた。
(危ない…寝過ぎちゃった…)
太陽が沈めば、鬼が現れる。ただでさえ日中でも日が差しずらいこの山では、油断は命取りだ。
「起きたか!おはよう!」
聞き慣れた声に振り返ると、そこには杏寿郎の姿があった。差し出された手を握り、体を起こす。
「どうやら寝過ぎたようだな!そろそろ俺は行くとしよう!」
土は払い、軽く身なりを整えると、杏寿郎はにっこりと笑うと、蛍も釣られて微笑んだ。
「うん……もう少しだからね。気をつけて」
「それはお互い様だな!」
「待って、杏寿郎。髪に落ち葉が…」
蛍がそっと彼の左耳の下あたりの髪に触れようと右手を伸ばすと、その手首を杏寿郎が掴んだ。