【鬼滅の刃】杏の木 ♦ 煉獄 / 長編 / R18 ♦
第2章 初めての死
木々の少ない開けた場所まで来ると、蛍は剣を抜く。呼吸を整え、動きやすいように半身で構えた。
四方に感覚を張り巡らせる。だが、それは突然、文字通り降ってわいた。
「上か!!」
剣を頭上に掲げ、左の手も峰に添え、上からの衝撃に備える。
しゃあああああ!と音がすると、上からもの凄い衝撃が降ってきた。
剣に気付かず舞い降りた鬼が、慌てて伸ばしてきたうでを引っ込めると、器用に蛍の構えた剣を足場に着地する。
「ぬああああ!」
そのまま剣を振り上げ、鬼をひっぺがす。地面に着地した鬼と正面から対峙し、よくよくその姿を見て、蛍は衝撃を受けた。
「子ども!?」
人間だったら年は十にもなっていないだろう。手足は細く、幼さの残る顔をしている。だがその瞳には血の筋が走り、口は裂け、大きな牙がむき出しになっていた。
よほどお腹がすいているのだろうか。鬼の口からよだれがぽたぽたと垂れる。
(くっ、動揺するな、あれは鬼…)
真っ直ぐに刀を構える。
「やらなければ…」
鬼は天に向け甲高い遠吠えの様な叫び声を上げた。
「やられる!!」
蛍は右足で思い切り地面を蹴って飛び出した。
それを見た鬼も真っ正面から向かい走ってくる。
(先手必勝!)
蛍が通っていた煉獄家で教えられる剣は、先手をいく攻めの剣技で、攻撃こそ最大の防御。
先に動けたら、それだけでアドバンテージがあった。
相手が左手を振り上げるのが見えた。つまり、こちらは右下から切り上げるのが有効である。
こういう事は考えるよりも何となく、自然と体が動く。このなんとなくを論理と技術として始めて教えてくれたのが槇寿郎だった。ふとその顔が頭をよぎった。
一瞬の後に、鬼の顔が目前に戻ったがその時には既に剣を振り上げた後だった。
鬼の体が斜めに真っ二つに裂ける。
「ぐ、ぐえ……おのれええええ……!!」
頭と左肩だけになった鬼が絶叫すると、ごぽっと嫌な音をたて、傷口から新しい肉が盛り上がろうとしていた。
(これが鬼の力…)
首を切らないと死なないというのは聞いていたが、目の当たりにしたのは初めてだった。
不思議な高揚感だ。
地面に転がる鬼の胸部を足で踏み止め、その首に日輪刀を添える。幼さの残るその鬼の顔が一瞬で恐怖に満ちたものへ歪んだ。