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【鬼滅の刃】杏の木 ♦ 煉獄 / 長編 / R18 ♦

第2章 初めての死


ゆっくりと手を下ろし、杏寿郎が優しく、そして少し説なさそうに目を細める。
今わかったのだが、この時の瞳はとても母親似だ。

「母上がよくやっていたのだ」

突然で一体何のことかわからなかったが、それでも彼は言葉を続ける。

「父上が外に出る時は、必ず母上が父上の髪を結っていた。幼い俺はいつもそれが羨ましかった」

亡き母を思い出したのだろう。ゆっくりと目を細める。

「きっと父は毎回こんな気分だったのだな。うむ!良いものだ」

にっこりと笑うと、結われた自分の髪の紐を軽く触ってみせる。太陽の様な、いつものはつらつとした彼だ。

「俺も、毎日、蛍に髪を結われたい!」

感情を直球で表現するのは、とても杏寿郎らしい。
しかし、今までの「年下の児童」ではなく、少年となった彼の言葉に、蛍は少し照れてしまった。

「あ、相変わらずなのね…」

その照れを隠すとように、くるりと後ろを向いておく。

「だから、死ぬな」

突然、真剣な声のトーンで言われる。

「…言われなくても。こんなところでは死ねないもの」

「その通りだ!これが終わったら、また俺の家へ来い!父上も千寿郎もきっと喜ぶに違いない!」

振り返ると、いつものどこか掴みどころのない彼が見つめていた。

「……ありがとう。考えておく。私はこっちに行くから」

杏寿郎に背を向けて歩き出すと「ああ、またな!」と背中が振動するぐらいの大きな声が返ってきた。

だが、ずっと視線を感じる。いつもの様に、きっと私が見えなくなるまで見守るつもりだろう。

後ろ手にさよならと手を振ると、蛍は肺の奥まで息を吸い、振り返らずにまっすぐと走り出す。

負けてられない。勝てなくても。強くなりたい。
杏寿郎のそれとは違う意味だが、蛍もまた、彼と同じフィールドにいたいと思った。

夕暮れだった空がだんだんと深く、暗い色になっていった。


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朝日が早く昇る東側を目指し、夜の山を移動する。

しんとした静かな空気が違和感に包まれるのがわかった。

(おかしい。静かすぎる)

左手を鞘に添え、感覚を研ぎ澄ませる。夜の山とはいえ、自然の中には自然の音がするものだ。だが今は虫の声ひとつしない。空気に張り詰めた緊張感を感じずにはいられなかった。

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