【鬼滅の刃】杏の木 ♦ 煉獄 / 長編 / R18 ♦
第2章 初めての死
彼のこういう屈託のない笑顔は年よりも幼く見える。
本気になった時は年よりも老齢してすら見える。
この表情の差が、彼の魅力のひとつだと蛍は思っていた。
「しかし、蛍の髪はどうする?」
「いいのよ、私は私でひとつに結ぶから」
残りのひとつをほどき、手櫛で髪を整える。
「よもや…」
蛍は全く気付かなかったが、杏寿郎はその姿に見とれていた。
「ほら、ね!」
肩より少し長く、やや茶色がかった髪を高めに結びなおす。
(おっと)
つい気を抜いてしまったが、相手は煉獄家の長男だ。もうあのころの「杏寿郎くん」ではない。失礼がないようにしなくてはいけないと自分を律する。
礼儀作法はひととおり学んでいるし、今まで問題なく過ごしてきたが、どうしても杏寿郎の前では素に戻ってしまうのだ。
(なぜだろう)
自分でもわからない。
「あ、あの、杏寿郎…さん」
「杏寿郎でよい!」
「杏寿郎…その、奥方様……本当に残念で…その、私、葬儀にも行けなくて…」
「うむ!気にするな!俺も気にしてない!」
「……ごめんなさい」
これだけは伝えたかった。いくら杏寿郎が良くても、自分で謝らないといけないという思いの方が強い。
「これは、母上のだな」
杏寿郎が蛍の耳を触る。温かい手のぬくもりが耳に触れ、ドキっと心臓が飛び上がる。
「つけていてくれてありがとう。母上も喜んでおられる」
にっこりと笑うと、またゆっくりと山の頂の方へ歩き出した。その笑顔を見ていると涙が出てきそうだ。
(だめ!泣き虫はとっくに卒業したの!)
「一緒に行こう!」
杏寿郎が手を差し出してきた。
だけど。
「……だめ。一緒には行けない!」
予想外の答えだっただろう。だが杏寿郎はそうか、と手を下げる。
「あなたといると、甘えてしまう。甘さが出る。それは私の弱さ。私は強くなりたい。だから今ここにいるの」
蛍は泣きそうになるのをこらえ、笑みを浮かべた・
「あんなに強いんだもの。一緒にいたら、私の出番はないわ。それだと、ダメなの」
「そうか、わかった!」
杏寿郎は蛍の手を優しく、自分の掌の上へと持って行った。
手の大きさまで、もう変わらない。たくましさなら負けてすらいる。
「蛍は強いぞ!俺は知っている!」