【鬼滅の刃】杏の木 ♦ 煉獄 / 長編 / R18 ♦
第2章 初めての死
「いる」
杏寿郎の表情が変わる。
どこを見ているのかわからない大きな瞳に、小さな炎が宿った。
二人はお互い半身を下げ、刀を構えると小さく息を吸う。
ガサっと音がした瞬間
「くっ…!!」
蛍の真後ろから陰が動いた。ギリギリのところで反応できたので、何とか飛び避ける。
鬼の方から目をそらさず、勢いがついてしまい体勢を崩さないよう、着地した足を踏ん張ったその時だった。
蛍の目には金色と深紅のグラデーションの髪がふわりと動くのを追うのがやっとだった。
ようやく視線を鬼に戻した時には、既に鬼の首は胴につながってはいなかった。
「ぐ、あ、な、何が…」
あっという間にぼろぼろと崩れ落ちる鬼も、自分がどうしてこうなっているのかわからない様子で、断末魔も残さず消え去ってしまう。
「すごい…」
思わず声に出してしまったが、杏寿郎は何の事かはわかっていなかった。
軽く抜き身の刀を振り、汚れを振り落とす。その刀身は真紅に染まっていた。
「炎の呼吸?」
「いや!今のはただの居合いだ!」
静かに鞘に収めながら、杏寿郎は無邪気に答えた。
今のが技ですらない。
眩暈がしそうだ。
「怪我はないか?」
「もちろん」
強がってみたものの、鬼を体が認識した瞬間、本当は恐怖を覚えた。反射的によけれたものの、決して余裕とは言えなかった。でもそれを悟られたくはなかった。
「うむ、さすがだ!」
ぽんぽんと肩を叩く杏寿郎に、蛍は違和感を感じる。そしてすぐその違和感が何かわかった。
「杏寿郎、背が伸びたのね。もう私と変わらないもの」
「俺も13だからな!しかしまだ抜くには至らないようだ!」
肩にかかる髪を払いながら、軽く身なりを整える。
「髪、邪魔じゃない?」
「うむ、邪魔だ!」
「ちょっと待ってね」
自分の、二つに結んでいた髪を結っていた紐をひとつ解く。
「ほら、かがんで」
「?」
言われるがままに屈むと、蛍は杏寿郎の髪の上部の方を一つに纏めて結んだ。
「ほら、これでどう?」
自分の手で髪をぺたぺた触ってみる。
「おお、これは良い!!横から落ちてくる毛がなくなった!」
目をキラキラ輝かせて笑う杏寿郎。