【鬼滅の刃】杏の木 ♦ 煉獄 / 長編 / R18 ♦
第1章 序章
杏寿郎の屈託のない笑顔で押し通されると、いつもそれ以上は言えなくなってしまう。
正直、内心ではズルいとすら思うこともしばしばだった。
「そう…なら、受け取る事にする。ありがとう…」
ピアスの形をしていたが、ピアスの穴を開けていなかったので、そのままそれを躊躇いなく、耳たぶへと差し付けた。
チクリとしたあとに、ほんの少し血が流れる。
「おお!似合っているぞ!」
「…ありがとう」
ぱあっと明るい顔をする杏寿郎に、蛍もつられて微笑み返す。
「蛍は少し変わった血をしているのだな。不思議だ」
ほんの数滴落ちただけの血から違和感を拾った事に蛍が一瞬ドキリとするが、杏寿郎は捨て置いた。
鬼の血が流れている事は産屋敷の人間と一部の柱しか知らされていない。それを数滴で違和感を感じ取るあたり、煉獄家の鬼狩りとしての歴史と遺伝子の凄みを物語っている気がしたのだった。
「是非、俺と祝言を挙げる日にはそれを付けて欲しいぞ!」
ぶふっ!!
突然の一言に思わず吹き出してしまう。
しかし4つも年下でまだ10の男の子だ。身近な年上の女性への憧れの様なものだとすぐに理解する。
「そうね、私にチャンバラで勝てたら…考えておきましょう」
わざと意地悪な笑みを浮かべるが、言葉をそのまま受け取る杏寿郎はぱあっと顔を輝かせた。
「よもやよもや!これはまた修練に励まねばならんな!!」
「ええ、私も…」
「蛍は暫くお館様の元へと戻るのだろう?次はいつ会えるのだ?その時勝負だな!」
持ってもいない刀で素振りをし出す様子に、年相応の無邪気さが伺える。厳しい煉獄家の家中にあってこれは珍しい事だった。
その火をすぐに消したくなくて、蛍は言葉を選び出す。
「そうですね、でも近いうちです。きっと」
蛍も女性としては体格には恵まれている方である。身長だけならば男性といて見劣りはしなかった。
そんな蛍の肩ぐらいまで背が伸びている事に、今更ながらに気がついた。
きっと次に会う時は同じぐらいか、もう抜かれているかもしれない。そもそも次はあるのだろうか。
すぐにネガティブになってしまうのは悪いクセだ。頭をぶんぶんを振って邪気を追い払う。