【鬼滅の刃】杏の木 ♦ 煉獄 / 長編 / R18 ♦
第1章 序章
(疎外感…?焦燥感……?いや、違う…)
ギリッ…と唇を噛み締め、胸の前で握った拳が小さく震える。
自分でも制御ができない薄ら暗い感情がずっと佇んでいる。普段はそこを見ないようにしているだけなのだ。”それ”は確かに昔から自分の中に確かに”ある”。
ふわり、と風が動いたかと思うと、突然、全身が夏日に晒されたかの様な熱を感じ、蛍は初めて槇寿郎に抱きしめられていた事に気づく。
不思議と震えは収まっていた。
何をどう反応すれば良いかわからず動けないままでいると、槇寿郎は蛍の髪がくしゃくしゃになるのも構わずに両の手で強く頭を引き寄せる。
逞しい槇寿郎の体にぴったりとくっつくと、血の流れる音が聞こえる。それがとても心地よかった。
サヨナラを言われるものだと思っていた蛍の耳に、息がかかるぐらいの近さで、槇寿郎は述べた。
「生きろ。死ぬな…」
そう告げると、頭をぽふんと叩くように撫でられ、今までに見た事がない様な笑みを浮かべた槇寿郎の姿があった。
何かを言いたかったのに言葉が出てこない。
そうな蛍を一瞥し、槇寿郎も家の方へ歩いていった。
でも私が向かうのはそちらではない。この屋敷を出るのだ。
いったん産屋敷邸に戻ろう。
もう14になる自らの身の振り方を考えねばならなかった。
「蛍!待ってくれ!」
大きな聞き慣れた声に、足を止めて振り返る。声が大きいせいで近くにいたのかと思ったが、思いの外遠いところで杏寿郎が手を振りこちらに走ってくる。
「これを!母上からすぐに渡すよう言われたので走ってきたのだ」
相変わらずのもの凄いスピードと、それでいて息一つ乱れていない姿はさすがとしか言いようがない。
手を差し出されたので、それを両の手で受け取ると、そこには燃える様に赤い石が埋め込まれた、シンプルなデザインながらも素人にでも価値のあるものだとわかった。
「血色珊瑚と言うと母上は申しておった。価値の有無はわからぬが、母上の家に伝わるお守りのひとつだそうだ。蛍に持って行くようにとのこと」
「こ、こんな高価なもの、受け取れません!」
首を横に振ると、杏寿郎は開いている蛍の手をギュット外から包み込む。
「それはダメだ!俺が母上から叱られてしまう」