【鬼滅の刃】杏の木 ♦ 煉獄 / 長編 / R18 ♦
第1章 序章
「では!また会おう!楽しみにしているぞ!」
相変わらずの大声で心底嬉しそうに言ってくる。手をぶんぶんとふり、見送ってくれていた。
少し歩き出してからふと振り返るとそのままの姿でまだぶんぶんと手を振っている。
きっと、姿が見えなくなるまで振り続けるのだろう。そんな姿が容易にできる事に、思わずクスリとしてしまう。
玄関門の入り口でもう一度振り返るとやっぱり手を振っていたので、こちらも降り返し、そして門を出た。
(生きろ…か)
そもそも何故生きねばならないのか。私の生きる意味とは?
命の恩人である産屋敷家や煉獄家の力になれない私の生きる意味とは?
帰路につきながら考える。考えても答えがわからない事を考えるのは愚かだとわかっていても、止められないのだ。
チクリ…
先ほど刺したばかりの耳飾りのせいか、小さく、耳が疼いた。何気に触ってみると、石のひんやりとした感触がある。
それと同時に、先刻の小さな小さな太陽の様な杏寿郎を思い出した。
不思議な事に、そうする事で先ほどまでの滅入る思考が明るくなっていくのがわかる。
(きっとなんとかなるはず…そう、私に出来ることを探してみよう。まずはそれから…)
せっかくだから耀哉さまに聞いてみても良いかもしれない。
あっ、もうお館様って呼ばないとね。
鬼殺隊の試験だけでも受けてみようかな。
杏寿郎くんにはまた会いたいな。
それから
それから
そんな事を思いながら、帰路へと辿る。冷たい風も既に気にならなくなっていたのだった。