第9章 交淡如水 【冨岡義勇】 1
担当3カ月目の主な出来事
義勇が鬼の血気術によって体が少し痺れているという報告があった。
解毒剤と夕食を持って訪ねる。
屋敷の台所を借りて汁物を作り、持っていく。
「あや。一緒に食べるか?」
「良いのですか?」
「あぁ。」
あやは何となく隣で食べた。無口な義勇に合わせて、あまり会話しないようにした。手の痺れで食べにくそうなものは「はいどうぞ。」と口に入れて食べさせてあげた。なんだか照れていたが、「あぁ」と素直に口を開けた。
義勇は無表情だが、最初のころから比べるとわずかだが眼差しが柔らかくなった気がする。そしてあやの方もだんだんと義勇に好意を持ち始めていた。
食事が終わって、縁側に座ってお茶を飲んでいたら、ふとあやの右手の近くに義勇の左手があった。ほんの少しの好奇心と、押せば行けるかもという若干の勝算があり、あやは自分の小指を義勇の小指にそっと絡ませてみた。
「・・・どうした?」
あやの方へ向き、聞き心地の良い穏やかな声で聞いて来る。
「まだ痺れているのかと思いまして。」
素知らぬ顔であやは答える。
「・・・痺れているが、・・・握れる位には回復した。」
義勇は、あやの方を見ずに小指を離した後、あやの手を掌で覆い、きゅっと握ってきた。
「・・・それは何よりです。」
2人ともこれ以上言葉は交わさず、暫く手を繋いだまま、竹やぶに風が通るサラサラという音を聞いた。
日が暮れて来たのであやは義勇に挨拶をして蝶屋敷へ戻った。
きっとこれはあやからの最初の「好き」と、それに義勇が応えてくれた。押せば以外といけそう。