第9章 交淡如水 【冨岡義勇】 1
「・・・。」
あやも、目が覚めると困惑した。あやの目の前に義勇の顔があったのだ。昨夜寝る前に何があったか思い出す。
(義勇殿の顔が何故か近くなっている。布団までかけてもらって・・・。)
掴まれていた手首はもう解放されていたが、掴まれた時の指の跡が残っていた。痛くは無い。
あ、そうだ。と思い、義勇の額に掌を置き、発熱の確認をする。熱は引いたようだ。ほっとした顔で義勇を見ると、紺色の瞳と目が合う。
あやは目を丸くして、ひゅっと息を飲む。
「・・・義勇殿。・・・熱を確認しました。すみません。」
「・・・そうか。・・お前、名前は?」
「紫天城です。」
「それは昨日聞いた。下の名だ。」
「あやです。」
これはどういう状況だろうと思いながら、聞かれたことに応える。・・・顔が近い。
「そうか。あや、昨夜、俺は熱が出たんだな。看病してくれたのか?」
「はい。それが私の任務でしたので。」
深い深い青に吸い込まれそうになるが、その瞳から目が離せない。
「そうか。」
「・・・その手首はもしかして、俺がやったのか?」
「・・・。はい。」
「すまなかった。」
「いいえ。・・・」
徐々に自分の心臓の音がうるさくなってくる。義勇は顔が良いのは知っていたが、声が・・この抑揚が無く穏やかな甘い声に心臓が反応している。
そして、急にこの状況が恥ずかしくなり顔が赤くなる。
「・・どうした。赤いぞ。」
「・・・すみません。お顔が近かったもので。朝食の準備を致しますので、暫しお休みくださいませ。」
そっと布団から抜け出し、何度も深呼吸をして呼吸を整え、朝食の用意をする。