第7章 ※赴湯蹈火 【煉獄杏寿郎】2
「・・・宇髄殿は良い人ですが、私は客に本気で惚れるようなことはしない。身を滅ぼすだけ。」
あやの話を聞き、ならば、と杏寿郎は続ける。
「俺の七年間と君の七年間は確かに違うだろう。俺が想像もできない様な苦労をしたのだと思う。しかし、君は自分で変わったというが、俺の目に映る君は何も変わっていない。強く潔く、泣き虫のくせにそれを我慢しようとする意地っ張りの・・・あやだ。」
「身請けを・・・」
あやは人差し指を杏寿郎の唇に当て、話を遮る。
「杏ちゃん。私を自由にしようと思ってくれるのは嬉しい。でも、死んだことになっている様な遊女の私は煉獄家の長男の妻にはなれない。身請けしてもらってもせいぜい妾だ。しかも、槇寿郎様や瑠火様や、千寿郎殿にかわいそうにと哀れんだ目で見られ、正妻に遠慮しながらあなたに抱いてもらうことだけを別宅で待つ妾。近所に住む私の弟も、遊女の姉が近所にいると肩身が狭くなる。それを私は望まない。・・・宇髄殿の4人目の妾の話の方がよっぽど私を人として見てくれている。」
「あなたの妻になることを本気で夢見ていた私に『身請けするから妾になってくれ』って言えるなら言ってみて。杏ちゃんの事が嫌いになれて気が変わるかも。・・・私にこれ以上惨めな思いをさせないで。」
あやは、これくらいはっきり言えば分かってくれるだろうと思い、杏寿郎を見て言う。
自分を想ってくれるのは嬉しいけど、現実はこうなのだ。ここの中で夢物語を紡ぐのとは違う。