第7章 ※赴湯蹈火 【煉獄杏寿郎】2
それならばと杏寿郎はあやの正面に座り、あやの目を見て頭を下げ、詫びる。
「そうか。無作法な振舞いをして申し訳なかった。・・・では前みたいに俺と他愛もない話をしてくれるか?」
あやは無表情のまま杏寿郎を見返す。
「何のお話を致しましょう?政ですか?歌舞伎はまだお好きですか?囲碁や将棋のお相手も少しなら・・」
杏寿郎は少し前のめりになり、あやの顔を覗き込む。少し優しい表情と口調になって言う。
「・・・いろ葉。君の話がいい。」
「私の話などつまらない。毎日厚化粧をして着飾って、思ってもいないことを言いながら毎夜違う男に抱かれて。・・・この繰り返しです。・・・次の話は?」
あやは表情を変えず、淡々と話す。
「そうだな。では俺の話だ。俺は七年前に急に行方不明になってしまった女子を捜している。夫婦になる約束をしたんだ。遊郭に売られた話は聞いたから、何度も吉原に通って見世を覗いたが見つけられなかった。」
「見つけたら連れ出したいと思っていた。身請けするには金子が必要だ。大名の仕事では自由にできる金は少ししか作れんから、悪友から商売を教えてもらって金は作った。」
「その悪友が懸想している女性を見に来いとしつこいもんだから仕方なく見に行くと、俺の捜していた人だった。」
「浮足立つような気持ちで会いに行ったんだが、嫌がっている素振りを見せる。彼女の言うこともわからんでもないが、・・・でも、俺はやはり納得がいかん。」
「そして、悪友には申し訳ないが、俺はその人を身請けしたいと思っている。」
「・・・・色良い返事はどうしてもらえないんだろうか?なぁ・・いろ葉?」
杏寿郎は拗ねた子供に言う様にあやの顔を覗き込み、優しく微笑む。
「・・・子どもの口約束なんて本気にして。」
折角しまい込んだ心はあっさり晒されて、すぐに「いろ葉」の顔が作れなくなり、「あや」が出てくる。・・・本当は嬉しい。杏寿郎も自分と同じことを思っていてくれた。と。
「子どもの頃とはいえ、約束は約束だ。俺は本気でその約束をした。・・・・しかし、君が宇髄に惚れているなら話は別だ。諦めよう。」