第7章 ※赴湯蹈火 【煉獄杏寿郎】2
あやはやっとの思いで数日過ごし、少しずつまた元の様に気持ちに整理がついた頃だった。
「いろ葉。煉獄家の若様がお見えだよ。」
あやは、逃げ出したい気持ちで何度も溜息をつきながら廊下を歩いて杏寿郎のいる部屋へ向かう。
あやの顔を見ると、ぱっと杏寿郎が笑う。
「・・いろ葉。・・顔が見たくなった。」
「・・杏寿郎様。ありがとうございます。」
あやは表情を変えずに言う。
杏寿郎は一応あやの呼び名には気を使ってくれているが、あれだけ言ったのにまさか来るとは思わず、あやは動揺していた。
杏寿郎は嫌だ。せっかく心の奥を閉じたのにまたこじ開けられて、自分でも忘れていたものを出して見せつけてくる。
宴会の席で杏寿郎の話に適当に相槌を打ちながら考える。・・・・只の金持ち客の一人として扱っていれば、いずれ来なくなるだろうか。
そういえばと、宇髄が言っていたことを思い出す。版籍奉還によって大大名である煉獄家は華族となるらしい。大事な跡取り息子の杏寿郎に良家との縁談でも決まればきっとこんな所、通わせてもらえなくなるだろう。少しの間だけ我慢すればもう会うことも無くなるのではないか。
・・・でも、本当は。・・・本当はあやは花魁という立場なのだから、杏寿郎の呼び出しを断ることができる。客を振るのも廓遊びの面白さの一つ。振られた客も別に怒りはしない。
遣り手やお楼主さんを言い訳に、その後辛くなるのがわかっていても、あやは会いたいのだ。自分の事が好きな大好きな杏寿郎に。限られたほんの少しの間でも。
揚屋からあやの部屋に移動する。すぐに杏寿郎はあやの顔を見て微笑むと、優しく抱きしめてきた。他の男に感じたような嫌な気分はしない。むしろ体温が心地よく感じ、胸が高鳴り、頬が赤く染まっていく。あやは離れるのが辛くなりそうで怖いと感じ、抱きしめてくる腕を解きながら言う。
「杏寿郎様。そのようにいきなり事を急ぐのはみっともないですよ。」