第1章 ※恵風和暢 【不死川実弥】1
ある夜
実弥は任務で鬼狩りに行っていた。それ自体はいつもの事で別にどうということはなかったが、実弥が着いた時には何人もの隊士が亡骸になっており、その中には知った顔もあった。
自分にとっては取るに足らない程の強さの鬼。すぐに勝負がついた。実弥はボロボロと体が崩れる鬼を見ながら、もっと早く到着できなかった自分にイライラした。
いつも自分はあと少しの所で間に合わない。この思いはもう何度目だろうか。そして、これはいつまで続くんだ?とイライラしながら走って走って、匡近の墓に着いた。
墓の前に人がいる。
あぁ、今、一番会いたくない背中が見えた。くそ、気配を消して来りゃあ良かった。と思っているとその背中がこちらへ向きを変える。
「こんばんは実弥。久しぶりだね。元気だった?」
背中が振り返って、いつもの笑顔を見せる。
「あぁ。あやサン・・・。ご無沙汰してます。」
いつもあやにだけは、なるべく目を向けて話をしていたが、この日はダメだった。まともに顔が見られない。
出会った時よりも美しくなったあや。
実弥ははあの頃から随分と体が大きくなったが、あやサンはほとんど体格が変わっていない。そんな小せェ体で、まだ刀を握ってると思うとまたイライラする。
こっちを見るな。来ないでくれと祈るが、もちろんそうはいかない。
「・・・実弥、また辛いことがあった?」
あやは実弥の様子がおかしい事に気づき、近くに来て顔を覗き込む。
だから嫌なんだ。すぐに心を見透かされる。そしてつい実弥は目を見てしまう。あやにそう訓練されてきたから。
「別に。」
目を合わせた。あやの灰色の瞳を見ると実弥の目から涙が出た。
(・・・分かってた。あー、くそ。イライラする。)
「泣いてる。」
実弥の頬の涙を細い指で拭う。
あやの小さい指先は硬くなっていて少しゴワゴワしている。実弥はそれがまたたまらなくイライラして目を逸らす。