第1章 ※恵風和暢 【不死川実弥】1
あやは、皆が寝ている時によく一人で素振りや型の練習をしているようだった。
ある日の夜、実弥が厠へ起きると、あやは少し先の広場で素振りをしていた。いつもの事なので気にも留めなかったが、カランッと木刀を落とす音が聞こえたので、行ってみて声を掛けた。
「おぃ。あやサン、どーした?」
「実弥、マメがつぶれた。」
あやが両手を実弥の方へ開いて見せる。
掌や指のマメがつぶれて血が滲んでいた。握る力も強かったのだろう手も少し震えていた。
「こりゃ、やりすぎだろォ。ちょっと座ってろ。」
実弥が薬箱を持って来て消毒をし、包帯を巻く。
「あやサン、小-せェ手。」
「ねー。私もそう思う。」
あやが実弥の手と自分の手を重ねて「これくらい大きい手だと良いねー」と比べてみる。指は一寸近くも違った。
「あやサン、素振りじゃなくて、足、鍛えりゃいいんじゃねェ?」
「足の方が筋肉量多いぜ。ほら、ここは走って鍛えて、ここは屈伸や跳躍・・・。なんか、あんたの足、全部柔らけぇな。」
と、おもむろに実弥はあやの太腿を触り始める。
「うォ!すまねェ。」
実弥は慌てて手を離し、あやを見ると、あやは真っ赤になっていた。
「ううん。ありがと。足鍛えてみるね。」
言い終わると赤い顔のまま視線を逸らした。
「・・じゃあ、俺が今日から朝飯作るんで、あやサン走って来いよ。」
「・・・わかった。そうする。」と、いつもはじっと目を合わせて話すあやが、目を合わせずに返事をした。
実弥の言うとおりに足を鍛えると、あやは筋力を速さで補えるようになり、格段に強くなっていった。
2人とも無事に最終選別を通過し、鬼殺隊員になり、日々の任務をこなしていった。
任務などで会えばあやはいつもの笑顔で実弥に話しかけ、怪我の心配をしたり、近況を報告し合ったり、時々食事に行くこともあった。
実弥はどんどん階級を上げ、あっという間に柱になった。
実弥はあやに会って話すと穏やかな気持ちになるので、一緒にいるのは心地よかったが、匡近を目の前で亡くしてからは怒りの気持ちを持ち続けて原動力にしたいと思い、少しずつあやを遠ざけるようになった。