第5章 ※燎原之火 【煉獄杏寿郎】3 完
俺が行ったときには梱包はもうほとんど終わっていた。夕食を何にしようか話しているとき彼女の表情は暗かった。気付かない振りをしていたら、急に抱き付いてきた。
「れんごくせんせい。相談に乗って下さい。」
「紫天城。もう乗れる相談は無い。」
そう言いながら背中を少しだけ撫ででやる。涙声には気付いていた。
「じゃあ・・・勉強を教えてください。」
「紫天城。もう君に教えられることは無い。」
諭すように言う。なんとなく、何が言いたいか分かった。
「・・あるよ・・せんせい。一つだけ。途中までしか教わっていない事。」
「・・それの、俺の役目はそこまでで終わりなんだ。」
「じゃあ、続きは誰に教わればいいの?」
紫天城がやっと、俺の胸から顔を上げた。目からは大粒の涙が溢れていた。
「君が・・本当に好きになった人にだ。」
「それが・・れんごくせんせいの場合はどうすればいいの?」
「俺では、駄目だ。もう明日で君の人生から離れるんだ。・・・君は、きっとこれからいくらでもいい人に出会う。」
「せんせい。私は、今、目の前の大好きな先生しか見えないよ。」
「今を一生懸命にならないと、次なんて来ないって先生は何回も教えてくれたよ?」
「せんせいの事が大好きなのに、他の人の事なんて考えられない。せんせいがキスから先の続きを教えてください。今日で生徒はもう終わりだから。」
高校生は 正義感が強く、好奇心旺盛で、短絡的で、快楽に弱く、刹那的。・・・そして、無垢で、直向きで、目の前の1日1日を一生懸命生きている。そんな高校生に自分は手を出してしまった。
・・・俺が彼女の気持ちに応えたことで始まった事ならば、最後まで責任を持たなければ。俺の立場や都合で勝手に決めつけて振り回すのは間違っていた。
「紫天城。降参だ。君が正しい。」