第3章 燎原之火 【煉獄杏寿郎】1
また少し経ったある日の夜
俺は残業をして帰宅し、遅めの夕食を済ませて風呂に入った。さほど飲みたい気分ではなかったが、風呂上がりで暑かったので冷蔵庫のビールを片手に、自室に戻った。
明日の予定の確認と授業の準備をしようと、鞄からパソコンと手帳を出して机に開き、プシュッと缶を開ける。
ブ――――――ッ、ブ――――――ッ・・
充電器に置いてあるスマホが鳴った。
今の時刻は10時10分。手の中のビールをチラと見て机に置き、呼び出しの相手を確認する。
____紫天城 あや
この時間の生徒からの電話は、自分の短い教員経験からも良い内容ではない事が分かる。
慌てて通話を押し、耳に当てる。
「・・・紫天城。どうした?」
「・・あ・・れんごく せんせい?・・・あのね・・。」
小さく震えた声。自分の鼓動が速くなる。
「どうした?」
「あのね・・・。男の人が・・・ずっと駅から・・・ついて来る。」
弱々しく言葉を繋ぐ声に、鼓動はさらに速くなるが、頭は急に回転し始める。彼女が身を守る方法、この電話で相手を逆上させないようにする方法、時間を稼ぐ方法・・・。・・ビールを飲む前で良かった。
「…今、どこだ?」
「コンビニのトイレ。」
とりあえず安心できる場所にいることにほっとする。ならば、俺にできることは一つだけだ。
「紫天城、それは事件だ。警察に連絡しなさい。」
カーテンを開けて、自分の車を見ながら言う。
「れんごく・・せんせ・・。警察は・・嫌だなぁ・・。」
急に紫天城の声の調子が変わり、さらに弱々しくなる。
「・・・紫天城。でも、俺では解決にならん。」
「せんせえ・・。警察はねぇ・・・も、何回も・・言ってあるんだ。・・・・でも・・・ううん。そうだよね。それしかないよね。ありがとうございました。遅くにごめんなさい。」