第23章 ※陽炎【煉獄杏寿郎】1
あやは宇髄が帰ると直ぐに煉獄の所へ来た。心配そうな顔で煉獄を覗き込む。
「どうした?」
と煉獄があやの顔を見ると、あやは胡坐をかいて座っている煉獄の正面に膝をついて抱き付いてきた。寄り添う様に肩口に頭を付けて。一方の腕を背中の方に回して煉獄の身体を支えるようにし、もう一方の手は煉獄のわき腹の辺りに置く。そう、折れているあばら骨の所だ。分かっているのか、自然とそうなるのか・・・。煉獄は分かっていると予想して声を掛けた。
「あや、そこはもう痛くないぞ。」
そうするとあやは顔を上げ、ちょっと首を傾げる。そしてまた肩口に頭を付けた。すり寄る様に体を近づけたので、着物の裾からチラとあやの太腿が見えた。そこに煉獄の瞳の色と同じような緋色の痣が見えた。
あやの白い太腿には太い縄が巻き付いている様な痣があるのだ。太腿だけでなく、腕や背中、腰にもあるらしい。
煉獄が連れ帰った時にはあやは意識が無かった。蝶屋敷にすぐに連れて行き、着替えと診察を頼んだ。その時に胡蝶からあやは体中に痣があるという話を聞いた。確かに抱きかかえたときに破れた着物の隙間から少しだけその痣は見えていた。
煉獄は全てを見たわけでないので、はっきりとはしないが、どうもその痣が大きくなっていっている気がするのだ。
煉獄は寄り添ったまま動きそうにないあやの頭を撫でて、肩に手を置いてとんとんと叩く。
「あや、ありがとう。さぁ、俺は庭で少し鍛錬をするから千と食事の用意をしてくれるか?」
あやはじっと煉獄の脇腹を見て首を傾げたが、煉獄が「無理はしないから。」と言うと渋々頷いた。そして煉獄の右手を両手で包むと小指にそっと唇を寄せた。静かにその右手を煉獄の膝の上に下ろすと立ち上がり、土間の方へ向かってトントントンと駆けて行った。