第23章 ※陽炎【煉獄杏寿郎】1
あやは、宇髄の方へ向き直り、羊羹の皿に手を伸ばす。
煉獄は慌てて、
「宇髄は自分で食べるから大丈夫だ。」
とあやの手を制す。そしてあやの顔を覗き込む。
「あや、千の所へ行って遊んでおいで。」
あやはこくりと頷くと、静かに歩いて廊下に出た。部屋の中に向き直って宇髄を見て頭を下げると、くるりと背を向け、トントントンと駆けて向こうへ行った。
あやの足音が遠ざかるのを待って、宇髄は煉獄を見る。
「あれは血気術か?なんか妙な気配だ。」
「やはり感じるか?君を呼んだのは俺だけの判断では難しいと思ってな。」
「胡蝶は?」
「胡蝶も藤の花の香に反応することも無く、陽光の下でも活動できているため鬼ではさそうだと言うんだが、同じ様に何か妙な感じがするので、断定はできないと首を傾げていた。」
「煉獄、お前はどう思う?」
「俺も鬼ではないと思うんだが、いくつか気になることがある。」
庭の奥の方で千寿郎とシャボン玉で遊び始めたあやを見ながら煉獄は少し声量を落として続けた。
「今は千と同じ位の年恰好なのだが、3日前我が家に来たときはもう少し小さかった気がするんだ。現に、その時着ていた着物はもう袖も裾の長さも合わない。」
そう言いながら部屋の端の方へ畳んで置いてあった着物を広げてみる。宇髄も顎に手をあてて着物に目をやった。
「ふ~ん。ま、確かに。でも、それは最初から体に合ってない小さい着物を着ていたのを見落としたってこともあるぜ?」
「俺もそう思う。で、昨日、何か手掛かりが欲しいと思って彼女と父親の家があった場所に行ってみたんだ。」
「近いのか?」
「富士の麓のあたりだ。近くに大きな神社があったから場所は合っていると思うんだが、見つからなかった。」
「はぁ?」
「その時に駆けつけた隠しの隊士も同行して貰ったが、いくら探しても人が住めるような建物は無い。」
煉獄と宇髄は顔を見合わせ、お互い眉根を寄せて渋い顔をした。
「・・お前これからあの子をどうするつもりだ?」
「今胡蝶が引き取り手を探してくれている。それが決まるまで我が家で様子を見る。・・万が一、何かの血気術にかかっていて、それが発動していないだけかもしれんからな。女子だから蝶屋敷の方が良いんだろうが、あそこは小さな子も多い。」