第23章 ※陽炎【煉獄杏寿郎】1
直ぐにまたトントントンと軽やかな足音が聞こえて、障子の前で盆を置くと今度は部屋の中を覗かずに、廊下に膝をついて座り、深々とお辞儀をする。そして盆を持って中へ入ると、煉獄の隣へちょこんと座った。
持って来た羊羹の皿に黒文字を添えて宇髄の前へ置いた。少し頭を下げて、顔を上げると上目でチラと宇髄を見る。
「あや、俺の鬼殺隊の同僚で友人の宇髄だ。いい奴だから、怖がらなくていい。大切にもてなしてくれ。」
あやは煉獄の顔をちょっとだけ見ると宇髄に向き直って頭を下げ、頭を上げる時に少しだけ微笑んだ。
そして、不安そうに煉獄の方を向く。煉獄がにこっと微笑むとそれを見てあやはふわっと笑った。
宇髄が「おっ」という顔をする。煉獄はその顔を見てちょっと眉を上にあげて「な?」と目を合わせるとまたあやに視線を向けた。
あやは盆からもう一つの羊羹を手に取って、同じ様に黒文字を添えて煉獄の膝の辺りに差し出した。
煉獄は「ありがとう」と言いながら受け取る。おもむろに羊羹を半分に切って、それをもう半分にしたらそっと黒文字に刺す。あやの口元に運んでやってあやの目を見た。
「あや、羊羹だ。甘いぞ。食べたことはあるか?」
あやは少し首を傾げる。それを見ながら煉獄は口を開いて見せた。あやも真似をして口を開く。その口に羊羹を入れてやるとあやは口を閉じてゆっくり咀嚼する。煉獄はこくりと飲み込んだのを見るとあやと目を合わせながら「おいしいか?」とニコッと笑う。あやもそれに倣ってニコッと笑って頷く。もう一切れ同じように口に入れてやる。また煉獄が笑うとあやも同じように笑った。
煉獄が残りも切ってやろうとするのをあやはふるふると首を横に振って制止し、黒文字を煉獄の手から取り、残りの羊羹を刺して煉獄の口元に運んだ。煉獄はちょっと驚いた顔をしたが、宇髄にまた目配せをしてから大きく口を開く。あやは大きな目をくるくるさせ、煉獄の口を見て慎重に羊羹を入れた。煉獄が頬を膨らませながら咀嚼するのをそのままじっと見ている。ごくんと喉を動かして飲み込み、「うまい!あや、ありがとう。」と煉獄が微笑むと、またそれを真似するようにあやも微笑んだ。