第22章 ※炎虎 【煉獄杏寿郎】5 完
「・・・・杏寿郎さん、昨日、ご自宅であやさんを久しぶりにお見掛けしました。」
「・・そうか。」
「艶っぽく、美しくなってらっしゃって、最初にお会いした時と見違える様でした。愛されている女性特有の幸せそうな顔をしていました。杏寿郎さんも此の所、益々男前になられて。・・随分愛し合ってらっしゃるんだと羨ましく思いました。」
「あぁ。俺が持てる限りの愛は全て注いだ。つい数日前にプロポーズしたしな。返事はすぐに貰えなかったが・・・・・まぁ・・もう、貰えなくなるがな。」
「・・・・杏寿郎さん、俺があやさんの所へ行きましょうか?」
「いいや。俺が行く。・・・全てが繋がった。ええと、今彼女は会社か?」
「はい。GPSの場所はそこです。もうすぐ昼休みの時間ですが・・。」
・・・・あぁ、なぜ俺はもっと自分の感覚を信じなかったんだろうか。警鐘は何度も鳴っていたのに。
俺は眉を上げて大きく息を吸うと、ため息交じりに問う。
「・・・高橋、場所はどこならいい?俺の家か?」
「そうですね。そこなら後が楽です。・・・杏寿郎さん、どこか遠くに逃がしてやってもいいんですよ。手配しましょうか。」
「いいや、俺だけならまだしも、組の名前を汚すわけにはいかん。間抜けにも警察の罠に嵌ってしまって其の尻拭いもできない様な組長じゃあな。今足元を掬われては元も子もない。俺に命を預けてくれている子達にも示しがつかんしな。・・・それに、遠くに逃がしたんじゃ俺は会いに行ってしまいそうだ。」
「・・・・杏寿郎さん、やはり俺が行きます。」
「いいや。俺が行く。俺の愛した人だからな。俺が幕を引く。・・・車を頼む。先に食事だ。彼女の口から話が聞けるものなら聞きたい。・・もう一緒に食事をするのも最後になってしまうな。彼女と最初のデートで行ったイタリア料理の店を予約しておいてくれ。」
「はい、承知しました。」
「今日の夜は7時からだったな。それまでには戻る。」
「・・・承知しました。処理が必要になりましたら連絡を。」
あぁ・・・言葉が出ない。不思議と腹は立たない。あれが全て演技であったなら…ただ天晴れだ。
正直に言うと、騙されていた事よりも、今日で彼女にもう会えなくなることが悲しい。