第21章 炎虎 【煉獄杏寿郎】4
車のスピーカーから高橋の声が聞こえる。高橋は事務所で全体の位置を把握して教えてくれている。
どの車にもこの会話は聞こえている。
「杏寿郎さん。」
「・・・杏寿郎さん。」
「なんだ高橋。聞こえている。」
「ダメですよ。」
「・・・分かっている。」
「警察が来たらまずいですからね。」
「・・・分かっている。」
「それをそこで撃ったら簡単には後始末できないですよ。」
「・・・分かっている。ふっ、君、見えてるのか?」
「もう少しで車3台とバイク一台合流します。バンは盗難車です。」
「あぁ。分かった。大丈夫だ高橋。」
組の車が来た。一台が上手く白いバンの前に入った。バンの後ろに二台付ける。俺の乗った車は右に付けた。どの車もバンから1メートル程の位置で囲んでいる。今、バンが曲がれるのは左だけだ。左に曲がるなら勿論このままついていく。曲がらないなら、次の信号で中の奴らを引き摺り下ろす。バイクが来たら、左に入り此方の都合の良い場所に誘い込む。
走っている途中、バンの運転手から俺が見える位置に車を進める。俺の目だけ見える様にスモークの窓ガラスを下げた。ゆっくりバンの運転手に顔を向けながら睨む。
俺に喧嘩を売るとはいい度胸だ。
盗難車だからか運転席に貼ってあるスモークが薄い。急場しのぎの物だろう。脅すのに好都合だ。俺の動きに臆したのか運転手の影が動き、車の前輪が揺れた。・・・やはりただの何も知らない小物か。
信号が赤になった。車が停まると一斉に組の車から若い子が降りてバンを囲む。バンの窓ガラスを特殊ハンマーでほぼ一瞬で全て割った。次の瞬間運転席の男も助手席の男もあっさり窓から引きずり出され、目に催涙スプレーをかけられる。俺も車から降りる。拳銃を手に持ったままポケットに入れ、後部座席のあやを探す。
目の端に映った引き摺り下ろされた二人の男・・・ダメだどちらも失禁して泣きながら必死に謝っている。何だこいつらは?
割れた窓から中を見る。
「あや!」