第20章 ※炎虎 【煉獄杏寿郎】3
次の同伴の日。
杏寿郎はクラブに行った後、ホテルの高層階の雰囲気の良いバーにあやを連れ出す。肩が触れるくらいの距離で並んで夜景を見ながらカクテルを飲んでいた。
杏寿郎はいつも酒を飲むとあやの耳元に顔を近づけてきて甘い声で囁く。この日の声は一段と甘く柔らかい。
「あや、俺はこれから君を口説きたいと思っている。」
杏寿郎の低い声が少し酔ったあやの頭に心地よく響く。
あやも甘い声を杏寿郎の耳の奥に吹き込む。
「私・・これから口説いてもらえるんですか?あまり経験が無いので口説かれるってどんな感じでしょうか?」
「それが、いい言葉が見つからないんだ。何と言えば君の心は俺に向いてくれる?」
「・・・杏寿郎さん、他の方にもそうおっしゃってるんでしょ?」
「・・・そう意地悪を言ってくれるな。俺が君だけを好きな事はもう分かっているだろう?」
「杏寿郎さん。あなただって私があなただけを好きって、もう分かってるんじゃないですか?」
杏寿郎はあやの方を見て微笑む。すりとあやの手の甲を掌で撫でてから、手を重ね、指の間に指を入れて握る。すうっと大きく息を吸ってから耳元で「あや。」と囁く。
あやが杏寿郎の方に顔を向ける。杏寿郎は目を合わせると、スッと頬にキスをする様に顔を寄せ、耳元で囁く。
「あや、今日は下に部屋を取ってあるんだ。」
「ホステスに入れ揚げている馬鹿な俺に抱かれてくれるか?」
「・・・私、上手ではないですよ。ご期待に沿えないかも。」
「大丈夫だ。俺が上手いから、君の期待に応えられると思うぞ。」
二人は耳朶に唇が触れる距離で囁き合ってくすくす笑いながら言葉遊びを楽しんでいた。
杏寿郎は大きく深呼吸をするとあやと目を合わせてにこっと笑い、手を握る。「では、行こう。」と手を引いてバーから出た。