第20章 ※炎虎 【煉獄杏寿郎】3
杏寿郎に会って十回程の同伴の後、私は家に戻って下駄箱にあった封筒の中身を出した。中はもう一万円札でパンパンに膨らんで入れられなくなっていたのだ。
枚数を数えると140万円を少し超えていた。
それに先日ホステスの給料をもらったが、振り込まれた金額を見て目を疑った。先月の6回だけで刑事の給料の数倍もあった。ママに確認したら杏寿郎がクラブで高いボトルを入れてくれるからだという。
そのホステスの給料と合わせて、さらに少し足すとキリの良い金額になったので、杏寿郎の育った施設に匿名で寄付の手続きを取った。
来月ホステスの給料をもらったらそれもまたそこへ寄付する。
最初からそうしようと思っていた。彼のコンプレックスに付け込んで近づいたせめてもの罪滅ぼしに。
杏寿郎は合うたびに少しずつ表情や言葉が優しく変わっていった。『君の笑う顔が好きなんだ』と私を見ながら目を細めて笑う。私はその笑顔を見るのが好きになっていた。
お母さんの顔を意識して笑うのはやはり心苦しくて、あれからすぐに辞めた。
彼の好きなものは私も結構好きだったし、彼の話はいつも面白かった。
毎日約束通り朝夕に自撮り画像付きのメッセージを送り合う。甘い恋人ごっこ。ホステス遊びとはこういうものだとしたら確かに楽しいかもしれない。と変に感心した。
杏寿郎はよく笑ってどことなく品が良い。幼い頃の育ちも良いのかレストランやコンビニの店員にもにこっと笑って「ありがとう」と言う。
それに、ホステス相手ならもっと早く体の関係に持ち込まれるかと思ったが、意外と紳士だった。・・・大切にしてもらっている気がする。
杏寿郎はお金の使い方こそ大胆でヤクザらしいが、それ以外はヤクザらしくないヤクザだった。尤も自分のイメージの中でだから、本当のヤクザの幹部や組長というものはこんなものなのかもしれないが。
私は、何かの時用に強力な睡眠薬を持たされている。無味無臭なので飲み物にでも混ぜてしまえば気付かれない。杏寿郎の自宅か事務所に連れ込まれたら眠らせている間に盗聴器が仕掛けたかった。なかなかその機会が来ないので肝心の潜入任務の成果はあまり上がっていない。
時々杏寿郎が高橋に暗号の様な事を言っている時がある。そしてその会話の大体2日後に新しいクスリや死亡者が増える。何かに関係していると思うのだが・・。もう少し彼の生活に踏み込みたい…。