第20章 ※炎虎 【煉獄杏寿郎】3
杏寿郎の弟は高校卒業で施設を出て、今年大学を卒業するという。長閑な地方の大学に進学して一人暮らしをしているそうだ。そのままそっちで就職して欲しいんだとまた別の時に話してくれた。
杏寿郎が何の仕事をしているのか知らせていないそうだ。弟やあやに使っているお金は一応、ヤクザのシノギではなく杏寿郎が相続した少しの遺産を株取引などで増やしたお金らしい。
「出所の怪しい金ではないから気にせず俺にお金を使わせてくれ。」と言われて、あやは苦笑いをする。
「杏寿郎様。毎回同伴してくださって連れ出してくださるのは嬉しいのですが、私、これではホステスの仕事が覚えられません。」
「…それでいいんだ。他の男の席に着いて君が楽しそうに話していたら俺は嫉妬してしまう。君の好みの客が来たらどうする?」
杏寿郎の冗談とも本気とも取れない言葉にいつもあやは返答に困る。
「…それだけでなく、同伴もアフターもお金を使わせて申し訳ないので、お店が無い日でも待ち合わせをしてデートに行きますか?昼間ならこの前話したパンダが見に行けますよ?」
「・・君、仕事じゃなくても俺に会ってくれるのか?」
「・・えーっと。良く分かっていなくてごめんなさい。それはルール違反なんでしたっけ?」
「いいや。まぁそうなんだが。それよりも仕事じゃないと俺に会っても給料は発生しないんだぞ?」
「先月の給料は驚くほどの大金でした。楽しい思いをさせてもらっているのは私なのに頂きすぎです。」
「いいんだ。俺がそうしたいんだ。早く君のしたいことができるといいと思っている。」
そこまで言うと杏寿郎は急に少し怖い顔になって低い声で言う。
「それに、俺が本当は悪い奴だったらどうする?あや、よく知らない人には付いて行ったらダメだぞ。」
あやはちょっと驚いた顔をして、すぐに杏寿郎の瞳を見ながら微笑む。
「ふふふ。私、人を見る目は確かなつもりだったんですが・・・杏寿郎さんが悪い人なのは気が付きませんでした。」
「わはは。そうだ。君は綺麗だからちゃんと自覚した方が良い。心配で仕方が無い。」
「・・杏寿郎さんは悪い人なのに心配してくれるんですか?じゃあ、ご心配をおかけしない様に昼の仕事の日は『行ってきます』と『ただいま』のメッセージを送ってもいいですか?」
「いいのか?それは毎日が楽しくなるな。」