第20章 ※炎虎 【煉獄杏寿郎】3
月曜日の午後
この日の同伴は美術館で待ち合わせ。メッセージのやり取りをしていて分かったが、どうやら杏寿郎はお芝居にも良く行くらしい。絵や音楽などの文化的な事全般が好きなようだった。
あやも先日のジュエリーショップよりもそういう方が好きだったのでほっとしていた。
美術館では手を繋いで企画展を見て、感想なんかの話をしながら彫刻が並ぶ通りを歩く。その日も同伴出勤してシャンパンのボトルを入れて一時間もするとまたデートと称して店から連れ出す。向かった先は水族館。
「あや、水族館で・・・キスはどこでしたらいい?」
「・・・人のいない所ですか?」
「では、ここか?」
「・・・サメの前?」
「クラゲの方がそれっぽいか?」
繋いだ手に少し力が込められたら、2人は目を合わせる。杏寿郎が微笑みながら唇を重ねる。
次の同伴は予約が取りづらいという人気のレストランでゆっくり食事をしてからお店。そして遅くまでやっている美術館へ。
その次はプラネタリウムと夜景の綺麗なダイニングバー。
杏寿郎は週に一・二回あやの出勤日には必ず同伴をしてすぐにデートと称して連れ出した。そして色々な場所で何度もキスをして抱きしめると、お金を無理矢理持たせてタクシーに乗せる。
会うたびに少しずつお互いの事を話す。
何度目かの時。
「君、どうしてホステスを始めたんだ?嫌でなければ教えてくれ。」
杏寿郎はチラとあやを見る。あやはその瞳に微笑みながら答える。
「・・・祖父の家をリフォームしたくて。」
これは本当の事。ホステスの給料でする気はないけど。
少し驚いた顔の杏寿郎。
「・・・君、立ち入ったことを聞くがご家族は?」
「高校生の時に事故で両親と弟が亡くなって、祖父と暮らしていたんです。元気な祖父ですが、最近寄る年波に勝てず足が悪くなりまして。」
「・・・そうか。俺も両親は小学生の時に他界したんだ。君と同じ様に弟もいる。一緒には住んでいないし、しばらく会っていないが・・・君と俺は本当によく似ている。」
あやは杏寿郎の質問にほぼ真実で応える。ほんの少し嘘が混ざるだけだと意外と気付かれない。