第19章 炎虎 【煉獄杏寿郎】2
車に乗り込むと杏寿郎は嬉しそうにあやの方を向く。
「あや、俺は観覧車に乗りたい。」
「はい、では乗りましょう。」
運転手に「行ってくれ」と言うと直ぐにあやの手を握る。お台場の観覧車は遅くまで乗れるらしい。
2人で観覧車に乗り込む。
「これは、向かい合って座るのが正しいのか?」
「・・どうでしょう。向かい合うと釣り合いが取れますね。」
「・・・でも、折角なのに少し遠くて寂しいな。隣に座ろう。ん・・少し傾くがまぁいいか。」
杏寿郎はあやの隣に座り、夜景や下の方を眺める。その横顔は無邪気な少年のようだった。杏寿郎は色んな表情を持っている。本当に変わった人だと思いながらあやはその横顔を眺める。
「お好きなんですか?観覧車。」
杏寿郎はあやに視線を移すとニコと笑う。
「・・・それがな、初めて乗るんだ。小さい時に何度か強請ったんだが、父が忙しくて叶わなかった。君は?」
「・・・・・・私も覚えている限りでは初めてです。私の父も忙しかったので。何度も約束をすっぽかされました。」
「一緒だな。・・・む・・これは、存外高いな。ほら、遠くまでよく見える。」
「・・そうですね。」
遠くで見るとあまり動いていない様に見える観覧車も、乗ってみると思ったよりも速いスピードで一番上まで進んでいく。
あと少しで天辺という所で杏寿郎は握った手に少し力を込める。そしてあやの顔を覗き込む。
「あや、観覧車で天辺と言えばキスだろう?」
「・・・そうなんですか?」
「そうだと思って、君を観覧車に誘ったんだが?」
「・・杏寿郎様は、なかなかロマンチストですね。」
「雰囲気は大切じゃないか?折角のキスなのに。」
「・・キス・・・したいんですか?」
「してはダメか?君に惹かれている。」
「会ったばかりなのに?」
「時間は関係ないだろう?」
「・・・確かに。そうかもしれませんね。」
「ほら。あや、もう待たないぞ?」
あやを見つめる杏寿郎の紅い瞳が少し揺れる。
観覧車を飾る色とりどりのライトを映してきらりきらりと輝くと、少しずつ細くなり、閉じる。
そして重なる唇。
顔を離して見つめ合って、また重なる唇。