第18章 炎虎 【煉獄杏寿郎】1
店を出た後、杏寿郎はあやの方を見て少し改まった顔で言う。
「あや、君に楽しい時間を貰った。良かったらまた食事に付き合ってくれるか?」
「こちらこそありがとうございました。・・・食事とは・・同伴ですか?」
「ははは。君は商売上手だ。そうだな君はホステスだからな。同伴しよう。次の出勤はいつだ?」
「明後日です。」
「良し。では、明後日。」
「昼間の仕事の都合もあるだろうから、また時間と場所の連絡を取り合おう。」
「またお会いできるのを楽しみに過ごします。杏寿郎様。ご馳走様でした。」
あやは杏寿郎の母の写真を思い浮かべながらにっこりと笑い、頭を下げる。杏寿郎はまた少し驚いた顔をしていたが、ほんの一瞬寂しそうな顔をしてからぱっと笑顔になってあやに言う。
「・・・あや。・・・少しだけ、抱きしめてもいいか?」
あやも微笑みながら返す。
「・・・杏寿郎様。私も少し名残惜しいと思っていました。」
杏寿郎はあやの言葉を聞いて少し眉尻を下げて切ない顔をした。そっとあやの身体を抱きしめる。あやは静かに杏寿郎の腰のあたりに掌を付ける。「ありがとう。」と呟くと杏寿郎は直ぐに体を離し、道路に向かって手を挙げてタクシーを捕まえた。
あやをタクシーに乗せると、「タクシー代だ」と10枚程の一万円を持たせようとしたので、「必要な分だけ頂戴します。」と一枚だけ取った。
杏寿郎は笑顔で「そうか。」と言いながらあやの鞄に残りのお金を入れ、ドアを閉めた。
「明後日の衣装代だ。今度は百合の花の様なドレスにしてくれ。」と笑って手を振る。
あやはタクシーが発車しても、道の角を曲がって見えなくなるまで杏寿郎の姿を眺めた。
一応念のためにアパートの最寄りのコンビニではなく、二番目に近いコンビニまでタクシーを使い、アパートに戻る。
あやは玄関で大きく溜息をついて、鞄に入れられたお金とタクシー代と称してもらったお金を「ヤクザからもらうお金なんて。」と呟いて、下駄箱にある小さな封筒に入れた。