第18章 炎虎 【煉獄杏寿郎】1
車に乗り込むと、杏寿郎は「寿司は好きか?」と問い、「はい。」と答えると少し微笑み、手を握って来た。
繋いだ手を少し持ち上げてあやを見ながら、「嫌か?」と問う。「いいえ。」と答えると口角だけ上げて微笑んで、前を向く。
「俺はああいう義理事は好きじゃないんだ。君がいてくれて助かった。」
「いえ、とんでもありません。私が楽しませて頂きました。」
あやの言葉を聞いて、杏寿郎は繋いだ手に力を込めると、少し考えて問う。
「・・・なぁ、君。昼間は何をしているんだ?ヤクザの飲み会に初めて出た割に堂々としていてなかなか度胸があるじゃないか。」
あやはドキッとしたが、きょとんとした顔をして杏寿郎を見る。産屋敷組の若頭補佐だけある。さすがの観察眼だと思いながら、こういう時は聞かれたことだけに応え、余計な事は言わないのがいい。と、落ち着いて答える。
「昼間はOLをしています。」
「体も鍛えているのか?肩や腕に綺麗に筋肉が付いている。」
「・・・学生の頃、剣道と空手をしておりました。今は護身術を少しと、時々ジムで鍛えています。筋肉質で恥ずかしいです。」
あやははにかんで笑いながら杏寿郎を見る。
「なるほど格闘技をしていたのか。それで度胸もあるんだな。俺も昔剣道をしていたぞ。ならばどこかの大会で会っていたかもしれんな。」
ご機嫌に剣道の話し始めた杏寿郎を見て、あやはうまく誤魔化せたとほっと胸をなでおろす。
その後、連れて行ってもらった高そうな寿司屋では日本酒を飲みながら寿司や料理をつまみ、他愛ない話をした。杏寿郎は時々、手を握ってきたり、指先を少し絡ませたりしてきた。
杏寿郎はさっきの高級クラブとは違い、年相応というよりも少し幼い表情でたくさん笑いながら、沢山のお寿司と卵焼きを食べていた。