第18章 炎虎 【煉獄杏寿郎】1
途中、堂磨がニヤニヤしながら席に来た。
「やぁ、杏寿郎。高いブランデーをありがとう。」
「兄上の舎弟の放免祝いの一つだ。気に入ってもらえるとありがたい。」
堂磨はニヤニヤしている表情は崩さずに、あやの顔を覗き込む。
「・・珍しいねキミが女の子と楽しそうにしてるなんて。・・へぇ、控えめで綺麗な感じの子が好みなんだ。俺の席の子と交換してよ。俺の席にも綺麗な子がいるよ。」
杏寿郎も負けずに笑顔を作り、あやの肩に腕を回して言う。
「兄上、申し訳ないがこの子はまだ入ったばかりで見習いでな。俺が仕込んでいる。もう少し成長してから可愛がってもらいたい。」
「ふぅん。杏寿郎。・・・分かった。成長が楽しみだねぇ。」
堂磨はニヤッと嫌な笑いをしてから杏寿郎の顔を覗き込んでまた中央の席へ戻った。
杏寿郎はあやの肩に回した腕に少し力を込め、あやの方を向かずに小さな声で言う。
「あや、今の堂磨には気を付けろ。君に興味を持ったかもしれない。付いていくな。危ない奴だぞ。」
「さあ、・・そろそろ出て食事に行こう。ママには言ってある。着替えて裏口から出ておいで。」
あやは静かに回された腕に触れ、「はい。」と小さな声で返事をする。あやは同じ組の兄貴分を危ないと言う杏寿郎に違和感があったが、あやも堂磨を空恐ろしいと感じていた。
杏寿郎と店の外に一緒に行くのは危険ではあるが、もっと近づくチャンスでもある。
万が一に備えて自分の鞄についているチャームにはGPS機能があって、位置情報はリアルタイムで警察本部が確認している。仕事用の機密が入っている携帯は家に置いてある。今持っている携帯は取り上げられても問題ない内容しか入っていない。
杏寿郎は静かに席を立つと、向こうでボーイに指示をしている高橋の所へ行き二・三言会話をすると、冨岡の席に行った。すぐにママがあやの所へ来る。
「煉獄さんは良い方だから大丈夫よ。困ったら連絡して。」と言い、煉獄さんから頼まれたとボーイを一人、あやが控室に下がるのに付き添わせた。
あやはベージュの膝丈のワンピースに着替え、軽くメイクを直して控室を出てからボーイと裏口へ行く。裏口で待つ杏寿郎にあやを引き渡してからボーイは杏寿郎からチップを受け取って店の中に戻った。