第18章 炎虎 【煉獄杏寿郎】1
煉獄は座ると直ぐに、あやの膝に自分の膝を少しだけ当ててきた。
あやに少し顔を近づけて「君、今いくつだ?」と問う。あやは正直に「26歳です。」と答える。煉獄はまた少し驚いた顔をしてぷはっと笑う。
「君、ホントにこういう仕事は初めてなんだな。いきなりこういう高級クラブに入って来るとは珍しい。・・・客からの質問には正直に答えなくてもいいんだぞ。」
「・・・すみません。」
あやは少し赤くなりながら謝ると、煉獄は微笑んで返す。
「いや咎めてはいない。気を悪くしてくれるな。・・・ん?・・まさか『あや』という名も・・・?」
あやは、一瞬目が泳ぎ、また少し頬を染めながら杏寿郎と目を合わせたあと、少し顔を近づけて「本名です。」と耳打ちする。煉獄は口元を手で隠してくっくっくと笑いながらあやを見る。
「それは流石に危ないから、俺以外に聞かれたら『あや』は源氏名だということにしておくと良い。・・・・君は本当に面白い子だな。しかし、こういう接客も初々しくていいかもな。君は品もあるし、良いお客が付きそうだ。」
煉獄は興味深そうにあやを見ながら、ボーイが持って来たブランデーグラスを持つ。あやが静かにボトルを手に取り、そっと注いで「どうぞ。」と煉獄の顔をみて微笑む。
「ありがとう」と煉獄は微笑み返し、グラスに注がれたブランデーの香りすうっと吸い込んだ後、一口、口に含む。口の中に少し留めて喉の奥に流し込む。喉がこくりと上下し、一呼吸おいて「ふぅ」とゆっくり鼻から息を吐き出す。
あやは思わずその一連の動作に見惚れてしまっていた。煉獄杏寿郎という人物は写真で見たよりも表情が柔らかく、強い目じりに色気のある睫毛の長い綺麗な男だった。あやが見つめていることに気づき、煉獄は口角を片方上げて笑いながらあやと目を合わせる。
「どうした?ブランデーを飲む男は珍しいか?」
あやは恥ずかしそうに目を伏せた後、微笑んで目を合わせて正直に謝る。
「・・・すみません。余りに煉獄様がお綺麗だったもので。」
「・・・謝るな。君は今、俺を褒めてくれたんだろう?ありがとう。美しい人に見つめられて嫌な気はしない。・・・ほら、君も一緒に飲もう。」