第16章 天馬行空 【宇髄天元】 2
キスされてから二週間後。
一週間が過ぎても宇髄君は準備室に入っては来なかった。それならそれで別にいい。
毎日昼休みには来る。美術室で宇髄君が絵を描いて、私は違う作業をしながら会話をする。何事もなかったかのように。
この日の昼休みも、宇髄君が黙って絵を描き始めたのを見て、私が準備室に入って午後の授業の準備を始めた。開け放していたドアから宇髄君が静かに入って来た。静かにドアを閉め、カーテンを引くと私の目の前に来て見下ろす。久しぶりの無表情。怒ってる?
「あやちゃん。もう一週間過ぎたから入っていいんだろ?」
「・・いいけど、・・宇髄君怖いよ。何?」
宇髄君は私の言葉を聞きながら抱き締めてきた。私は彼の大きな身体にすっぽりと収まる。私の頭を大きな手で包み、胸に押し付ける。宇髄君の制服からは香水の様ないい香りがした。
「宇髄君。ダメだよ。離して。」
「・・・・あやちゃんさー。ずりぃよ。何ですげー優しくしてくるのに、俺が何かするとダメって言うの?」
「え?」
「俺にだけ特別を一杯くれてさ。俺のお願い聞いてくれて。甘えさせてくれて。」
「・・・・。」
「身体に触れてもそんなに拒絶しないし、怒ってるって言いながらも目が合うと笑ってくれて。直ぐ許してくれる。・・・なぁ・・そんなことされて、俺すげぇあやちゃんを好きになっちゃったんだけど。」
宇髄君は抱きしめた腕に力を込める。私はちょっと顔を上げて宇髄君を見る。
「・・・だって、あなたを理解するのが担任の仕事だったから。」
「だってもう担任じゃねぇじゃん。でもずっと優しくしてくれてんじゃん。」
「・・・・。」
宇髄君は体を離すと少し体を屈め、私の頬を両手で挟んで目を合わせる。少し怒ったような顔で続ける。じっと私の瞳を見つめながら。
「なぁ。責任取ってよ。あやちゃんがそうさせたんだぜ。」
私は呆れたように笑って宇髄君を見て言う。
「・・・それってホントに私のせい?・・・甘えるのは辞めて今度は脅すことにしたの?」
宇髄君はぷっと笑って私の顔から手を離した。
「なんだよ。通用しねぇな。俺の手が読まれてんじゃん。」