第15章 天馬行空 【宇髄天元】 1
「はい。」
ちらっと宇髄君を見る。宇髄君はまた私に微笑む。私は視線を横にずらして顔の傷も少し見てやる。まだ腫れている。
床には私が持っていた保冷剤が落ちていた。そっと拾うと、もうすっかり柔らかく、ぬるくなっていた。きっと宇髄君の持っている保冷剤もそうだろう。私は宇髄君に掌を差し出す。
「保冷剤、変えてきてあげる。」
「ありがと。紫天城先生。」
保冷剤を私の手に置くときに手を重ねてきた。さっと手を離して、私は保健室へ行く。
幸い、保健室には誰もいなかった。保冷剤を冷たいものと変え、準備室に戻ると、宇髄君はミケランジェロの図版を見ていた。有名なダビデ像のページを見ながら、聞いて来る。
「これ、見たことある?」
私は少し間を開けて横に立って図版を見ながら答える。
「あるよ。結構大きいんだよ。」
「イタリア?」
「そう。フィレンツェ。アカデミア美術館だったかな?」
私が図版の注釈の所を指差して覗き込むと、宇髄君は自分の小指を私の小指に当ててくる。私は何も言わずそっと離す。
宇髄君は私の方を見て続ける。
「・・・・あやちゃん。俺さ、あやちゃんとこうやって過ごす時間すげー好き。」
私も宇髄君の方を見て返す。
「・・・・そうね。私も嫌いじゃないかも。宇髄君、素直な時は大型犬みたいなんだもん。」
宇髄君はそれを聞いて嬉しそうな顔をした。
私の視線に合わせて体を屈めて顔を近づけてくる。
「じゃあ。俺のこと犬みたいに頭撫でてよ。」
「え?撫でて欲しいの?何?甘えてるの?」
「そう。甘えてる。早く。」
おずおずと私は掌を宇髄君の頭にのせて、そっと2・3回撫でる。