第15章 天馬行空 【宇髄天元】 1
宇髄君の髪の毛はサラサラで、手を離して顔を見ると嬉しそうに笑った。
私は「本当に犬みたい」と、笑いながらまた数回、少し雑に頭を撫でて言う。
「・・・宇髄君。私、担任降ろされたけど気にしないで。むしろ仕事が減って喜んでるから。給料変わんないもん。・・でも、お母さんがまたキレない様にあなたは勉強を必死に頑張って!」
「現実に戻された・・。」
「ふふふ。じゃ、一校時終わるから、行ってらっしゃ―い。」
宇髄君は私の言葉を聞きながら睨むような顔をした後、少し笑う。
「・・・あやちゃん、ミント頂戴。」
私も笑いながら「はい」と二粒掌に出してやる。
宇髄君は、一粒自分の口に入れた。
ふと真面目な顔になってもう一粒を抓むと私の閉じた唇に差し込み、親指で私の唇をスッと撫でた。真っ直ぐに私を見る紫の瞳。笑っていない顔はさっきの笑顔とは対照的に男の顔だった。急にドッドッドッと私の心臓が体の中で主張し始める。
宇髄君の顔が少し近づき、微かに口が開く。
「行ってきます。」
そう言うと宇髄君は準備室から出て行った。
私は準備室のドアがきちんとしまったのを確認して鍵をかける。そしてソファに座り込んだ。
・・・・・キスしてくるのかと思った。
宇髄君、私に何を求めているの?母性的な愛情?恋人の役割?性欲を満たしたい?それともただ揶揄っているだけ?
目を閉じて長く息を吐いてから、目を開ける。心臓が落ち着いてきたので、机に置いてある保冷剤を保健室へ返しに行った。
あれから、宇髄君が放課後に美術室に来る回数は少し減った。勉強を頑張っている様で、同じクラスの数学の得意な不死川君と仲良くなって教えてもらっていた。
男の子と仲良く一緒にいるのを見るのは初めてかもしれない。・・・たまにぎゃあぎゃあと口喧嘩しているみたいだけど。
でも、昼休みには毎日来て、美術の事や学校の事を話して、コーヒーを飲んで授業に行く。コーヒーの後に舐めていたミントは一粒だけにした。