第15章 天馬行空 【宇髄天元】 1
「・・・宇髄君。やめて。離れて。」
宇髄君は私に体を預けたまま、此方を向かずにぎゅっと手を握って言う。
「・・・あやちゃんにもう来るなって言われると思ってた。」
宇髄君の大きな手が暖かい。指に巻いたガーゼとサージカルテープが私の指に当たる。ガーゼには血が少し滲んでいた。
「・・・このまま離れないなら、もう来るなって言うから。ホント、怒るよ。」
宇髄君はもう一度私の手をぎゅっと握る。視線は握った手の方でまだこちらを向かない。
「あやちゃん。俺のせいで迷惑かけてごめんな。」
「・・・・今が一番困ってる。・・・宇髄君。これ本気でクビになるやつだから。」
「・・・あやちゃんがクビになったら俺も困るわ。」
宇髄君はそう言うとやっと体を起こして、もとの位置に戻る。手も離した。
「あやちゃん。ちゃんと二校時は授業行くから。」
私の方をみて、宇髄君はにこっと笑う。大人っぽい生徒だと思っていたけど、こうやって笑うとまだ17歳の子どもの顔。背は見上げる様に高いし、筋肉を付けてがっちりはしているけど、線の細さや、顔にはあどけなさも残っている。色の白い、切れ長だけど目の大きな繊細な顔つきの男の子だ。
彼のお母さんが心配になるのも分かる。小さな頃は女の子よりも儚げでかわいい子だったのだろう。苦労しそうな道を無理に歩ませたくないという親心。
私は笑い返さずに、目を逸らして席を立つ。
「授業に行くのは当たり前だよ。手も・・あれだけ力が入れば大丈夫だね。」
私は背中に視線を感じながら自分の机の方へ行く。
「・・・あやちゃん。怒った?」
「・・・・困っただけ。もうしないで。」
私は手にガーゼとワセリン、サージカルテープを持って振り返る。さっき、休憩時間に来たらガーゼを変えてやろうと思って持って来ていた。宇髄君は私の手の中の物を見てほっとした顔をする。
「ん。」
私の方へ微笑みながら手を出す。私は黙って血の付いたガーゼを剥がし、付け替える。