第15章 天馬行空 【宇髄天元】 1
宇髄君は黙って保健室から出ていく。私は出した物の片づけをしてから美術室へ戻る。ジャケットのポケットを探る。鍵が無い。・・・やられた。
準備室のドアが少し開いていた。準備室のドアを開けて入るとソファに宇髄君が座っていた。右手の甲に保冷剤を置いて、左手でもう一個の保冷剤を持って頬を冷やしている。
「・・・冷やしてて偉いじゃん。」
静かにドアを閉めて、宇髄君を見ながら言う。
「俺のせっかくの良い顔が腫れてるとみっとも無ぇだろ?・・・なぁ、あやちゃん。手の保冷剤、固定できねえから隣に座って当ててくんねぇ?」
宇髄君はやっと私の目を見た。チラと今日の授業予定を見る。一限は空きだ。
「えぇ・・・嫌よ。授業行きなさい。」
「・・・授業行ってもこの手じゃシャーペン持てねぇよ。・・・なぁ、お願い。紫天城先生。」
珍しく中々引き下がらない宇髄君の縋るような目を見て、困ったな。と思いながら私は目を逸らして窓の方へ行く。慌てて宇髄君が私の手を掴む。
「紫天城先生。怒った?ごめん。」
予想していなかった宇髄君の言葉に驚き、顔を見る。
いつになく不安そうな顔。私は、ぎゅっと握る手に力を込めてくる宇髄君に向き直る。
「・・・怒ってない。宇髄君、手、放して。」
「・・・ごめん。」
宇髄君は悲しい顔をして手を離した。私は窓際に立って、カーテンを引く。そして宇髄君の隣に座って、顔を覗き込んで微笑んで言う。
「本当に怒ってないよ。一応カーテンしとこうと思っただけ。授業をさぼってる生徒が外から見えない様に。」
ソファの上にある保冷剤を手に取って、「ほら。」と宇髄君を見ると私の膝の横辺りに手を出してソファに置く。私は少し下を向いて手の甲の青くなったところに保冷剤を乗せてあげる。
一校時の始まるチャイムが鳴った。私たちはそれが鳴り終わるまで静かに聞いた。鳴り終わってしん・・とした準備室に宇髄君の小さな溜息が聞こえた。
「なぁ・・・あやちゃん。ごめんな。」
私は宇髄君の方を見る。宇髄君は自分の足のつま先の方を見ていた。