第15章 天馬行空 【宇髄天元】 1
次の日の朝、私は朝のHRに行く必要が無くなったので職員室に一回行き、今日の予定を確認すると、みんなの視線が嫌ですぐに美術室に行った。
美術準備室の前に宇髄君がいた。顔が腫れている。こめかみには血が滲んでいた。宇髄君は私を見ると、無表情で言う。
「・・・あやちゃん。怪我した。」
「・・・みたいね。保健室行く?」
宇髄君は静かに私についてくる。保健室には例の養護の先生がいたが、宇髄君を見ると、そっといなくなった。いつもの丸い椅子に座らせる。
傷口に消毒をしながら一応聞く。怪我自体は浅くて少しほっとする。
「・・・今日はどうしたの?」
「・・・。」
宇髄君は何も言わない。私は冷凍庫から保冷剤を出して、カバーに入れる。いつもはしてあげないけど、腫れている頬にそっと当ててやる。怒ったように口を結んでいる宇髄君の顔を覗き込む。
「転んじゃった?」
宇髄君はすうっと息を吸って、大きく吐いてからやっと答える。
「・・・あやちゃん。うちのババアがごめん。」
「・・・宇髄君、もしかしてなんだけど、・・・・お母さんを殴ったわけじゃないよね?」
「・・・しねえよ。」
「・・・・良かった・・ドキドキしたよ。・・・ほら、手も見せて?」
左手を出す。怪我はしていない。当たり前。宇髄君は右利き。「・・右手だよ。」と私が言うとチと舌打ちしてポケットに入っていた右手を出してくる。指の付け根の骨は青くなり、指にはいくつか切り傷があった。血も結構出ている。慌てて持っていた保冷剤を「自分で当てて」と宇髄君の左手に持たせる。取り敢えず血を拭く。
「・・・・何と戦ったの?」
「ナイフ持った悪い人たち。」
「いやー怖い。武器持った人はダメよ。危ない。」
しかも右手は絵を描くんでしょと言おうと思ったが、飲み込んだ。消毒をするが、結構傷が深い。
「仕方ねぇだろ。相手がかかってくんだから。」
「・・・走って逃げなよ。足速いじゃん。」
「・・・んー・・次からそうするよ。・・・なぁ、あやちゃん。その傷に絆創膏は無ぇんじゃね?」
「あ、やっぱり?」
じゃあワセリンもかなぁ?と思いながら、手に取る。傷の深い人差し指と中指の傷口の周辺にそれを塗ってガーゼを当て、テープで留める。薬指と小指には絆創膏を貼った。もう一個保冷剤を出してカバーに入れて一応握らせる。
「ほら、できたよ。授業に行きなさい。」