第15章 天馬行空 【宇髄天元】 1
少し空気が肌寒くなる頃、水彩画用に組んでいたモチーフの片付けを手伝いながら宇髄君が言う。
「俺、美大に行きてぇ」
「・・・美大で何がしたいの?」
「・・・絵描くのすげぇ楽しいわ。絵描きたいとしたら何の仕事があるの?」
私は次のモチーフを組みながら答える。
「イラストレーターか、商業デザインか、映像系か、アニメーション、舞台美術・・とか?建築や工芸は・・・ちょっとあなたのしたいこととは違うかなぁ?大学教授や画家は、お金儲けできるまで時間がかかるかな。・・・あ、私みたいに教員しながら制作するって手もあるよ。」
「へぇ。あやちゃん、先生みたいじゃん。」
「・・・知らなかったの?何だと思ってたの?」
笑いながら宇髄君を見て、デッサン用の石膏像を入れ替えようと石膏像に手をかけたら、私の手の上に宇髄君が手を重ねてきた。驚いて宇髄君を見る。「重いだろ?持ってやるよ。」と、にっこり笑った。「あ、ありがとう。」慌てて私は手を離す。宇髄君は石膏像をひょいと抱え、もとあった棚に戻す。「次は?」「・・・マルス。」・・・宇髄君。私の反応を楽しんでる?
宇髄君はマルスを台に載せると、何もなかったかのように私の方を見た。
「あやちゃん、マルスどこ描くのが好き?」
「顔の正面か、背中。」
「俺も。」
私の返答に嬉しそうに笑う。
「あやちゃん。俺の背中もこんなんだぜ。ほれ、触ってみ?」
と背中を向けてきた。
え?と思ったけど、僧帽筋の辺りに手を置いてみる。確かに筋肉がついている。
「あー・・・。」
あー・・じゃないよ私。流されてる。よくない。そのまま背中をパシンと叩く。
「はい。触らせてくれてありがとう宇髄君。さ、下校時刻はとっくに過ぎてた。帰りなさい。」
「はぁい。紫天城せんせ。さよーなら。」