第15章 天馬行空 【宇髄天元】 1
この日もいつものように昼食後に準備室でコーヒーを淹れていた。コーヒーを待っている宇髄君が、私の机にあるアルバムを見付けて「見せて」と言う。
大学の卒業旅行で友達と三人でイタリアに行った時の物だ。「どうぞ。」と言うと、砂糖を入れたコーヒーを飲みながら中をペラペラと見て、「これはどこ?」とか「誰の絵?」とか「これは何?」と色々質問をしてくる。
ふと手が止まる。
バチカンにあるミケランジェロのピエタ
「マリア様の顔、綺麗だよね。」と簡単にピエタの説明をするとへぇと言った後、此方を向いた。
「あやちゃんはさ、イタリア好きなの?」
「そう。専攻がヨーロッパの美術史だったから、特に好きだったイタリアには何度も行った。フィレンツェとかローマとかおすすめ。宇髄君もいつか行ってみたら?食べ物も人も良い所だったよ。」
「あやちゃん、一緒に行こうぜ。次に行くとき連れてってくれよ。」
「え?嫌だ。」
「即答・・・何でだよ?」
「外国で喧嘩とかされたら困るもん。宇髄君目立つし。」
「しねぇよ。」
「じゃあ、あなたが大きくなったらね。」
「これ以上?」
「年齢だよ。20歳過ぎたらね。」
「三年後か・・・。・・あやちゃんは、イタリアの芸術家は誰が好き?」
「ベタだけど、カラバッジォとかドナテッロとか・・・さっきのミケランジジェロかなあ?選べないけど。」
「カラバッジォ?」
「画集あるよ。ほら、この上。」
私が本棚の上の方にある画集に手を伸ばすと、「これ?」と宇髄君が私に覆い被さる様に背後に立ち、手を伸ばして画集を取ってくれた。ん?今背中に宇髄君の体が触れたぞ。気のせい?
「・・・そう。これ。ほら見て。『バッカス』有名だよ。こってりした絵だよね。」本をぱらぱらと捲って、説明する。宇髄君は隣に立って覗き込んで本を見る。「なんか見たことあるわ。」と言いながら宇髄君の腕が私の肩に当たる。・・・あれ?とそっと少し横に体をずらす。もうそのまま体は触れなかった。・・・う~ん、気のせい・・・なのかな?
休憩時間が終わって、宇髄君は渡したタブレットミントを口に入れて授業に行った。
・・私もタブレットミントを口に入れて考える。
今の距離感はあんまり良くないぞ。