第15章 天馬行空 【宇髄天元】 1
2人でぽつぽつ会話しながらなんとなく美術室で昼食を取ることがほぼ毎日になった。食後に私が勝手に持って来ているエスプレッソマシーンでエスプレッソを淹れていたら「俺にも頂戴」と宇髄君が言う。
「エスプレッソって予想以上に苦いよ?」と一応念押しして出してみた。小さなカップに少しだけのとろりと濃いコーヒー。宇髄君は少しだけ口を付けたら眉根を寄せて「これ、うまいの?」と渋い顔をした。
「宇髄君、苦めのチョコは好き?」
「・・まぁ嫌いじゃねぇよ。」
じゃあ、と私は宇髄君のエスプレッソに角砂糖を一つ入れて小さなスプーンで混ぜる。宇髄君は眉根をよせたままこちらを見ている。
「コーヒーの量に対して砂糖、多すぎじゃねえ?」
「飲んでみて。」
宇髄君はおそるおそる口を付けて味見する。
「・・・・おぉ。高いチョコみたいな味になった。これならうめぇな。」
ね?と笑いながら私も自分のエスプレッソに砂糖を入れてちょっとずつ飲む。
「あやちゃん、大人みたいじゃん。」
「・・ふふ。コーヒーに砂糖を一杯入れる大人?でもこの味、結構癖になるよ。」
コーヒーを飲み終わると「はい」とミントタブレットを宇髄君の手に2粒出してあげる。「どおも」とそれを口に入れて舐めながら、また午後の授業に行く。
これも昼休みの日課になった。
このあたりから、去年からの引継ぎが嘘のように、宇髄君は私の言うことは聞くようになった。質問したことにも結構素直に答える。相変わらず登下校中に喧嘩はしている様だが、学校にいる間は教師に言い返したり威圧的な態度を取ったりせずに大人しくなった。
コーヒーとタブレットミントで私の仕事が安定するなら安いものだ。
・・・宇髄君は誰かにまともに相手をして欲しかっただけなのかもしれない。