第13章 炎炎 【煉獄杏寿郎】3
木曜日は朝練があったので、教官室での約10分。
昨日の不死川の辺りから、少しあやの様子がおかしい。いつもはそんなことをしないのに、今日はキスをしている時に首筋にもキスをしてきた。驚いて体を離す。
「あや。それはやめておこう。続きがしたくなったら困る。」
「・・・うん。確かに。」
あやは少し寂しそうに笑うと、視線を下げた。そして何も言わずにまた俺に抱き付く。キスはせずに予鈴がなるまでずっと肩口に顔を埋めたままだった。俺はあやの背中を何度も優しくさすり、頭にキスを数回した。
放課後も準備室で10分。
またあやは俺の肩に顔を押し付けたまま静かに呼吸の音だけが聞こえる。おれはあやの両足を掬い、抱え上げるとソファへ移動した。俺の膝の上に横抱きに抱える。
あやはずっと肩に顔を埋めたままだったが、腕は首筋に回しなおした。おれもあやの肩口に顔を埋めた。ふと思い出してこっそり首筋の匂いを嗅いでみた。
・・・・甘い。あやの肌の匂い。
嗅いでみて後悔した。目頭がどんどん熱くなってきてしまった。涙までジワリと湧いてきている。
今日とあと明日だけなんて・・・。
明日の放課後は早いうちに実習生は解散になるから実質は今と明日の朝。・・だけ。
「もう10分過ぎた。」と言おうとしたけど、言えない。もう少し。もう少し。
思わず・・・スンと鼻が鳴ってしまった。俺の肩口のあやがピクリと動き、声がした。
「・・・杏寿郎、泣いてる。」
「・・・泣いていない。」
あやがやっと顔を上げて俺を見る。あやの方が泣いていた。
「あやが泣いてる。」
「泣いてない。」