第12章 ※炎炎 【煉獄杏寿郎】2
あやと寿美、どっちがより好きとか大切とかそういう競う感じではない。それぞれベクトルが違う。
あやといると気がついたらあやのペースに振り回されている。俺はそれが結構好きで楽しく過ごせる。
寿美は俺のペースを守ってくれるので落ち着く。
・・・・うーん。我ながら随分なクズの理論だ。狡い。ベクトルが違うからなんだというんだ。二人を傷付けていることには変わりない。
・・・本当にここ数日で不倫する男の心理が痛いほどわかる。共感するかは別として、理解はできた気がする。この背徳感が楽しめるようになると良いんだろうが、俺にはまだ無理だ。
家に帰ると、寿美は夕食の準備をしていた。
俺を見ると寿美はピッと火を消して向き直る。
「おかえりなさい杏寿郎さん。」
「寿美、ただいま。いい匂いだな。」
「お腹空いた?」
「空いたが・・・まだ五時前か・・・ちょっと早いな。」
「・・じゃあ・・・ちょっとイチャイチャする?」
・・・したくない。今、寿美と触れ合ったらあやと比べてしまう。・・・が、拒否もできない。
よく考えたら寿美とひと月近く肌を重ねていない。
新婚がそれはまずいだろうな。寿美が俺の気持ちに不安になるのも分かる。
「・・・シャワーを浴びてもいいか?汗臭いんだ。」
「・・・分かった。」
あやなら絶対に風呂場に付いて来る。そしてそこでそのまま・・・。
・・・仕方ない。俺は一度寝室に行き、ゴムを一つ手に取るとリビングへ戻る。
キッチンで洗い物をしている寿美に後ろから抱き付く。
「寿美・・嫌でなければ一緒にシャワーを浴びるか?」
「え?」
「すぐに君が欲しくなった。」
「・・・杏寿郎さん・・・いいよ。」
おれは寿美をそのまま両足を掬って抱えると、風呂場に行く。キスをしながら服を脱がせ、俺も脱ぐ。
寿美は明るい所でセックスをするのが好きではないので、電気を付けずに薄暗い浴室でシャワーを出しながら、あちこちにキスを落とす。寿美の身体を丁寧に準備する。
もう一度訊ねる。
「ここでこのままは嫌か?」
「・・・ううん。いいよ。」
寿美の声は少し震えていた。