第12章 ※炎炎 【煉獄杏寿郎】2
暫くそれを楽しむとお互い抱きしめ合った。ぎゅっと腕に力を入れる。少しの沈黙があって、あやが鼻をくすんくすんと鳴らす。
「あや?」
「・・・杏寿郎ごめん。幸せでまた涙が出てきちゃった。」
「謝るな。俺は君に辛い思いをさせたな。」
あやは慌てて体を少し離し、俺の顔を見て言った。
「ううん。辛かったことを思い出したんじゃなくて・・。嬉しいの。またこうして出会えたことが。」
あやはいつもこうだった。泣き虫だけど強い。慰めているつもりが、俺が慰められていて心を軽くしてくれる。
「確かにそうだな。」
おれはまたあやを抱きしめる。あやもおれの首筋に顔を付けて、すうっと息を吸った・・・ん?吸った?
「・・・待てあや。俺は汗臭くないか?」
おれは慌ててあやから体を離そうとしたが、ぎゅっと抱きしめられて離してくれない。
「ふふふ。私、杏寿郎の汗の匂い結構好き。臭くないよ。胴着の匂い。」
「いや、良く分からんが・・・。では君のも嗅いでみるぞ。」
「きゃ~!それはやめて。」
「胴着の匂いなんだろう?嗅がせてくれ。」
あやは慌てて俺の体を押しのけて、離れる。そして目が合うと笑う。
「わははは。俺たちは何をやってるんだ。」
「・・・だね。・・・仕事しよっか。」
「・・・そうだな。」
そう言うとまた目を見合わせて笑い合い、そっと触れるだけのキスをして、お互いの仕事に向き合った。
あやとはいくらでも一緒にいられる。ふざけ合ったり、お互いを慈しんだり、真剣になったりととにかく楽しい。
4時前になると急にあやは真面目な顔で、
「奥さんが待ってるから帰りなさい。杏寿郎。」
と言い、帰らされた。
帰る前にもう一度手を繋いで抱きしめ合って、数回のキス。体を離して見つめ合う。そして最後に繋いだ手をぎゅっと握ってそっと離す。
「また月曜日に。」
「うん。また月曜日。」