第12章 ※炎炎 【煉獄杏寿郎】2
数秒目が合うがあやは視線をすっと横に逸らした。
俺は胸の上のあやにキスがしたいと思ったが、あやを困らせるわけにはいかないと我慢して微笑む。
『寿美を傷つける』ではなく、『あやを困らせる』という思考に俺は自分で人として終わってるなと呆れた。
あやは、俺とまた目を合わせると、じわっと瞳に涙を浮かべ、俺の胸に額を付けた。
「・・・ごめん。杏寿郎。違う。私が悪い。あなたは悪くない。私が優しいあなたを誘ったの。必要であれば奥さんには私が謝る。」
あやも優しい子だ。俺がなるべく罪悪感を抱かない様に気を使ってくれている。
しかし、残念なことに、俺の心には罪悪感よりも、開き直りの占める割合の方が多くなってきている。
俺がやっていることが間違っているのは分かっている。
でも、断りにくいと分かっている卑怯な提案をする。
「君の実習期間中だけ・・触れ合っても良いだろうか?」
あやは俺の胸から顔を挙げずに答える。
「・・・実習が終わったら・・・?」
「お互いの連絡先は消して、元の生活に戻ろう。」
「・・・・奥さんと別れない?」
「別れて欲しいか?」
あやはパッと顔を上げて小さく首を振る。
「ううん。そんなことさせたら奥さんに申し訳ない。」
俺はあやの顔にかかった髪を後ろになでつけながら言う。
「・・・君はそう言うと思った。・・・やっぱり悪いのは俺だ。」
あやは眉尻を下げながら少し考えて言う。
「・・・杏寿郎。・・じゃあ・・あと一週間だけ。」
「・・・ねぇ、杏寿郎。・・・嫌かもしれないけど、泣いていい?」
「・・・いいも、何も、・・・さっきからずっと泣いているじゃないか。どうした?」
言いながらまた涙が零れ始めたあやに優しく微笑み、頭を撫でてやる。
「あなたに会えたのが本当に嬉しくて。・・私、前世でもっとあなたに愛してるって伝えればよかったって後悔してた。・・・自分が死ぬまで、ずっと。」
「・・・俺も、全く同じだ。唯一の心残りだった。」
「・・・会いたかった。」
「俺も会いたかった。」