第9章 振舞
「す…すごい…。女の子相手に作りすぎちゃったかな…って思ったのに、全部食べてくれて…」
『あぁ~、実はオレ結構大食いなんですよ。実家でも食べ過ぎだって言われて太ったら商売にならないって怒られたり…』
そう言って、完食したお皿を一緒に片付けをする。
久々知は彼のそんな横顔が、少し悲しそうに見えてしまった。
「どうしたの?」
『えっ…いえ、なんというか…。本当にここは平和でいいな…と思って。』
「平和?」
『多分ご存じだと思いますが、オレの…いえ、あたしの実家は花街の遊郭なので女は華奢で美しくないと売り物にならないって言われて、資金も食べ物よりも綺麗な着物や化粧道具に使われて…。特にあたしは、殺しが専門だったから資金稼ぎができないからと食事は一番質素だったから。だから、こんなにお腹いっぱいご飯が食べられることがすっごく幸せだなって』
そう言って笑ってる彼だったが、久々知にはやっぱり悲しそうな表情に見えて仕方がないようだった。
「…やめちゃえば?」
『えっ?』
「暗殺なんて、やめればいいじゃないか。今のままでも十分この学園に馴染んでいるし。」
『…兵助さん、あたしは暗殺があるからこの学園に居られているんです。暗殺がなくなったらこの学園に居る意味ないですから。』
「じゃあくノ一として、編入すれば…」
『あたしの本分は暗殺ですよ。忍術とは違うんです。』
「でも…」
『兵助さん…』
彼は、思わず皿を洗う手を止めている久々知に急接近し彼の喉元に常に所持している毒針を宛がった。
油断していたとはいえ、久々知は少し焦ったような表情になった。
『…あたしのことを思って言ってくれているのは、とてもありがたいです。でも…あたしには、この道しかないんです。あたしの存在意義を…否定しないでください。』
彼はいつもの暗殺をするときの目でそう言ったが、彼はすぐに久々知の喉元から毒針を離した。彼はそのまま食堂を出ようとした。
「あ、若月!!」
『豆腐料理、美味しかったです。またぜひ食べさせてくださいね』
今度はいつもの目で久々知にお礼を言って食堂を出て行った。