第9章 振舞
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食堂に残された久々知は、ハァ…とため息をついて再びお皿を洗い始めた。
「兵助。」
「ん?あ、勘右衛門」
食堂に入ってきたのは、久々知と同じ部屋の尾浜勘右衛門だった。どうやら尾浜は、彼に豆腐料理を振舞うということを聞いて監視をしていたようだった。さっきの針を宛がわれた時も、すぐに対応できるように尾浜の手には万力鎖があった。
「どうしたんだい勘右衛門。そんな怖い顔し…」
「お前、いい加減にしろよ。」
「えっ…」
「お前が誰を好きになろうが、どう行動しようが文句を言うつもりはない。でも、今回の相手はダメだ。相手は仮にも学園長の暗殺を目論む暗殺者だ。どんなに優しく後輩思いで委員会を手伝ってくれたとしても所詮は敵だ。それを忘れるな!」
「…分かっているさ。」
「なら、不用意に奴を刺激するな。今度は奴に殺されるかもしれないぞ」
と言って、尾浜勘右衛門は食堂を後にし廊下に出た。
そして、食堂の角を曲がった時尾浜はふぅ…と息を吐いた。
「学級委員として一応注意はしておきましたので、あまりあいつを叱らないでやってください。先輩方。」
と独り言のようにつぶやくとどこからか、6年生の立花仙蔵と食満留三郎が現れた。2人共久々知を監視しながら見張っていたのだ。
「5年生として、あまりにも身勝手な行為だったがまぁ尾浜が言うなら勘弁しよう」
「これが文次郎なら、きっとお前もただじゃ置かないだろうな。」
「それにしても、火薬委員もだが下級生もあの事件をきっかけに由利若月への印象が良くなりつつある。これは、早々に対処するべきじゃないか?」
「いや、今下手に噂を流しても余計に下級生達の不安を煽るだけだ。もう少し様子を見よう。」
そうして、6年生達は各々に報告のために自室へ戻っていった。尾浜も自分の部屋に戻っていくが、久々知だけはずっと食堂で彼の事を考えていた。